研究課題/領域番号 |
15K13253
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研究機関 | 東北文化学園大学 |
研究代表者 |
山口 慶子 東北文化学園大学, 医療福祉学部, 教授 (50200613)
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研究分担者 |
猪平 眞理 宮城教育大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (70232577)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 重複障害児 / 視覚発達 / 手指機能との協応 / 支援教育 / ロービジョン |
研究実績の概要 |
[目的]重複障害児に対して、最大限の視覚発達を目的として手指運動と協応する玩具の制作を発案する。「物を掴み、自らの意欲で対象を見る」という乳児期における視覚発達の最も初歩段階の機能を萌芽させ、最大限の視覚発達を促すことを目的とする。 [対象と方法]肢体不自由および精神発達遅滞等が存在する重複障害児において、眼球および視路に明らかな異常所見が認められないにも関わらず、視覚発達障害を示す幼児を対象とした。視力的には視覚障害者等級3級以下に相当し、指数弁以上の視機能を有する幼児を対象とした。研究協力者である熊坂 泰磨医師(小児リハビリテーション専門)による全身的障害の評価および肘関節、橈骨手根関節の可動域、手指の機能的な評価を行った。対象児の手指の形状を3Dスキャナーでスキャンし、手指、関節等の形状解析を試みた。手指の形状、機能、関節可動域、手指の長さや直径、手掌の計測、掴むときの動作の特徴等を総合評価し、それぞれの対象児が最も掴みやすいような工夫を施した玩具をデザインした。玩具の形状は球形を基本として、3Dプリンターで描出した。対象児が制作した玩具を掴んで動かせたときに音が出るように、球体の内部に鈴や小球などの小物を封入した。 [研究の進捗状況]現在、6名の対象児に対して、個々の対象の手指の特性に合わせて3Dプリンターで描出、制作した玩具を使用して遊んでもらい、改良点などを模索中である。対象は、物を掴むことが非常に困難であったにも関わらず、球体の骨組み部分に指を入れることができるような工夫を施した玩具で把持が可能となり、玩具を掴み、見ながら動かすという、「手機能と視覚の協応」動作に繋がった。また、片手で掴む動作が可能になった上に、両手を連携して物を掴み動かす動作に発展できた対象が認められた。「手機能と視覚の協応」が叶う玩具の制作ができたので、視力を今後、随時測定し比較検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究方法について、当初計画した3Dスキャナーを用いて対象児の手指および橈骨手根関節等の形状をスキャン、形状解析を実施する段階で難航した。3Dスキャナーの操作方法の習得に予期せぬ時間を要し、さらに、購入した機種では、微細な構造をスキャンする機能に限界があったために、形状を正しく読み取ることに難渋し、研究計画に遅れが生じた。その後、3Dスキャナーを用いての形状解析の部分を、多方向からの写真撮影と手指の長さ、直径、手掌の計測に切り替えて実施した。研究を進めていく間に、形状よりも手指の機能、関節の可動域のほうに重点を置いたほうが良いことに気付き、計画、手順を一部変更したために時間を要した。三次元で玩具の基本形となる球体のデザイン~3Dプリンターでの描出するまでの制作過程の習得にも時間を要した。立案時の研究計画の見直し、制作工程の習得を含めて、進捗には若干の遅れが生じていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
[今後の計画推進方策・発展性] 研究計画に若干の修正はあるが、立案時の本筋の研究計画には変更はない。玩具の基本形となる球体を三次元でデザインし、3Dプリンターで描出する工程における手技をさらに習得して玩具制作にあたる。それぞれの対象の手機能に合わせて制作した玩具は、各対象に使用してもらい、「手機能と視覚機能を協応させる」ことに繋がるかどうかを検討し、各対象とも使用しながら問題点を見つけ、改良を重ねる。改良の過程で、球体玩具を使用しての「遊び方、遊びの質」について、本研究分担者である猪平 眞理氏(視覚支援教育専門)が検討する。「遊びの質」の検討から、球体玩具にさらなる改良点があるかどうかを検討し、遊び方の工夫も併せて検討する。今後、随時視力を測定していき、本研究開始前後での視力を比較検討し、視覚発達を評価する。 視力検査方法は、本来、意思の疎通ができない乳児に対しての視力測定に適しているPreferential looking(PL)法を用いて近距離視力検査を行う。 本研究対象者のQOLの向上、今後の発展性として、親子で遊ぶことができていなかった対象家族の中で、球体玩具制作が契機となって、対象児への関心が増し、親子間、同胞間で遊ぶ時間が増え、遊びの質が向上し、社会の基本となる家庭でのコミュニケーション能力の向上につながることを期待したい。 将来の展望として、手指機能と視覚機能を協応させる球体玩具を、ロービジョンの未就学児、または視覚支援学校等での教育に応用できないかどうか、本研究協力者の柿澤 敏文氏(人間総合科学専門)と杉山 利恵子氏(視覚障害教育専門)が検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3Dスキャナー購入に際し、当初の計画よりも安価な機種を選択したことと、3Dプリンターの素材カートリッジが予測よりも十分な個数の研究玩具描出に使用できて、替えのカートリッジを購入しないで済んだため。また、対象児の研究協力の際に同伴すると見込まれた同胞がいなかったために、研究補助として同伴幼児の見守りに対しての謝金を使用しなくて済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
スタンドアローンのPCととの周辺機器の購入。 関連学会への出席、手で触れる教材トライアルの見学のため、視覚支援学校や関連教材を有する図書館などを訪問して検討する際の旅費など。
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