研究課題/領域番号 |
15K13257
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
伊藤 鉄也 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (10232456)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 視覚障害 / 日本古典文化 / 仮名文字 / 触読 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、視覚障害者が点字と音声だけでは困難だと思われる、先人が残した文化遺産の受容に関して触読による挑戦をするものであり、温故知新の知的刺激を実感し実践することを目的としている。日本の古典文化を体感できる古写本『源氏物語』に書写された変体仮名の文字列を、触常者が能動的に読み取る方策を探究しようとするものである。これは、日本古典文学の中でも「本文研究」「写本学」という異分野からの挑戦である。 その試行錯誤の結果、立体コピーの活用によって、目が見えなくても古写本の変体仮名を浮き出し文字によって触読が可能であることが確認できた。さらには、名古屋工業大学の森川慧一氏の研究支援を得ることによって、「音声触図学習システム」を活用したタッチパネルによる古写本『源氏物語』の触読実験にも成功した。 こうした成果は、昨年度内に2回開催した「古写本『源氏物語』の触読研究会」で報告し、早々に開設したホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」でも公開している。また、平成27年10月に京都府立盲学校で開催された「日本盲教育史研究会 第4回研究会」で、「『源氏物語』を触って読む ─700年前の写本に挑戦する─」と題して研究発表することで、広く成果を報告した。これらの成果は、「古写本『源氏物語』の触読研究ジャーナル」というオンライン版の電子ジャーナルを創刊し、そのメディアを通しても公開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
古写本の紙面を立体コピーすることにより、目が見えない方々に触読していただく試行錯誤を継続して実施している。さらに、研究成果を報告する一環として、多くの方に触読体験をしていただくことで、広く一般にも理解を深める活動も展開している。これにより、多くの知見を得て、さらなる方策の検討に着手しているところである。 また、立体コピーに加えて、タッチパネルによる「音声触図学習システム」の導入により、指と耳を連動させた調査研究も展開することで、幅広い可能性を探る状況となっている。この音声による触読に対する支援は、有効な手段であることが確認できている。 こうした成果は、年2回開催する「古写本『源氏物語』の触読研究会」で報告して討議を重ねることで、さらなる課題解決の道を探っている。また、電子版の「古写本『源氏物語』の触読研究ジャーナル」をウェブ上に公開して報告することにより、多くの方々と情報の共有をはかっているところである。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、順調に触読に関する調査研究は進展している。立体コピーとタッチパネルについては、さらに木目細かな配慮によって試行錯誤をすることとなる。 本科研2年目となる平成28年度からは、3Dプリンタを導入した試行に取り組む。これは、目の見えない方が抱えるまざまな状況を勘案して、個別の事例に対応した触読資料の作成に生かしていくものとなる。 さらには、『変体仮名触読字典』の編集も進めて行く。これまでの調査研究で明らかになった事例をもとにして、立体コピーを活用した変体仮名の確認用の字典は、変体仮名を触読する際の基本的な資料となる。これは、現在の日本の文化から遠ざかっている変体仮名を、目の見えない方々だけでなく、目が見える方にも活用していただけるような方針で編集をしている。この字典は、今後実現が確実視されている変体仮名のユニコード化をも視野に入れたものであり、幅広い利用者を想定したものになるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルバイト謝金及び消耗品として予定していたものが、当初の計画の順調な進捗に伴って不要となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
立体コピー及び3Dプリンタの活用により、消耗品費が増加することが予想される。さらに、『変体仮名触読字典』の作成に伴いアルバイト経費も増加することに対処する。
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備考 |
オンライン版電子ジャーナル『古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル』(ISSN:2189-597X)をパスワードなしで自由にダウンロードできる形で公開中(http://genjiito.sakura.ne.jp/touchread/?page_id=508)。
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