研究課題/領域番号 |
15K13266
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
久保 若奈 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (10455339)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プラズモン / パターニング / 局所熱 / 熱電子 / ナノギャップ構造 / 二酸化バナジウム |
研究実績の概要 |
昨年度、プラズモン誘起透明化現象を発現する金メタ3原子構造の作製に成功し、プラズモン誘起透明化現象と思われる光学特性が確認された。そこで、その構造に紫外線硬化性樹脂をキャストし、さらに可視光を照射すれば、プラズモン誘起透明化現象によって生じる増強場により、紫外硬化樹脂が硬化すると期待した。しかし、樹脂の種類、キャスト量、光照射時間、過剰樹脂の除去方法など、さまざまなパラーメータを試行したが、紫外線硬化樹脂が硬化する様子は明確には確認できなかった。 今年度、関連文献を調査なかで、プラズモン誘起透明化現象を発現するダークモードプラズモンでは、金属ナノ構造体中に熱電子が生成し、それが最終的に金属ナノ構造体の局所熱になることを知った。そのため、光の回折限界を超えるパターニングを実現するに当たって、まずは金メタ3原子構造のギャップ間に増強場または局所熱が発生しているか、確認を行うことを試みた。そこで昨年見出した、二酸化バナジウム薄膜の熱相転移挙動を利用し、メタ3原子構造が局所熱を発生しているか、確認することを試みた。 メタ3原子構造を二酸化バナジウム薄膜上に作製するのは困難であったため、二酸化バナジウム薄膜上に銀ナノロッドを作製した。そして単色可視光を照射し、二酸化バナジウムの抵抗率を測定して、二酸化バナジウムの相転移現象を調査した。その結果、銀ナノロッドのプラズモンが誘起される波長でのみ、二酸化バナジウムの電気抵抗率が明らかに低下し、プラズモン共鳴下において、銀ナノロッドが局所熱を発生し、それが二酸化バナジウムの相転移をアシストしたと結論した。この研究結果については、現在論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
作製したメタ3原子構造に紫外線硬化樹脂をキャストし、それに単色可視光を照射した際の紫外線硬化樹脂の硬化の様子を観察した。2wt%程度に希釈した光ナノインプリント樹脂を、メタ3原子構造に1滴滴下し、スピンコートによって薄くのばした。その後、波長800nmの単色光を照射した。この波長は、メタ3原子構造の消光スペクトルから決定した。プラズモン誘起透明化現象を発現すると推測できる波長である。 照射時間を変化させ、サンプルをアセトンで洗浄する処理を施した。その結果、SEMでギャップ領域を観察した際、うっすらと残渣のようなものが観察されたが、ギャップ以外の箇所でも同様の残渣が確認されたことから、ギャップ構造が誘起するプラズモンによる樹脂硬化ではないと結論した。現時点では、何が原因で、紫外線硬化樹脂の硬化が実現できないのか、定かではない。そこで別の指標によって、プラズモン誘起透明化現象を評価できないか、検討を行った。プラズモン誘起透明化現象が発現される際は、ギャップ間に増強場が形成され、同時にかなり高い局所熱が発生すると考えられる。その局所熱を検知できるシステムであれば、プラズモン共鳴による増強場発生を確認できると考えた。 そこで、昨年発見した二酸化バナジウムのプラズモン誘起相転移現象を利用してメタ3原子構造のプラズモン誘起透明化現象と、その増強場の評価を行うことにした。当初、二酸化バナジウム上にメタ3原子を作製するのが困難であったため、まずは銀ナノロッドを作製し、単色光を照射して二酸化バナジウムの電気抵抗率を調査した。その結果、銀ナノロッドのプラズモン共鳴波長でのみ、二酸化バナジウムの電気抵抗率が低下する様子を確認した。この結果は、プラズモン構造によって増強場及び局所熱が生じていることを示唆するものである。
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今後の研究の推進方策 |
光の回折限界を超越するパターニングを、紫外線硬化樹脂によって評価することを計画していたが、これまでの検討において困難であると判断した。そこで最終年度は、微細パターニングを、二酸化バナジウム薄膜の相転移現象によって評価できるシステムの構築を試みる。二酸化バナジウムは、ナノドメインで相転移を生じることが知られており、プラズモンによって誘起された二酸化バナジウムの相転移の分布を調査すれば、可視光照射下において光の回折限界を超えたパターニングを実証できる可能性は十分に考えられる。問題は、残りの研究期間が1年と短い期間内で、二酸化バナジウムの相転移分布を測定できる装置を確立する必要がある点である。 サンプルの作製では、二酸化バナジウム上にメタ3原子構造を作製する。関連論文では、二酸化バナジウムの局所領域における相転移現象の評価を、原子間力顕微鏡によって行っている。当研究室には同様の設備はないので、代替の技術を用いて、メタ3原子構造上の増強場発生の確認と、ナノパターニングへの展開について検討を行う。 同時に平行して、銀ナノロッドによる二酸化バナジウムの相転移に関する論文を執筆し、発表する。論文のまとめにおいて、電磁界シミュレーションが不可欠と考えているので、研究協力者に電磁界計算を依頼する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の想定より、効率的に消耗品を使用・購入できたため、わずかに残額が残った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度消耗品の購入に充当する。
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