研究課題/領域番号 |
15K13269
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
谷中 淳 筑波大学, 数理物質系, 助教 (80400638)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ショットノイズ解析 / ナノ接点 / 酸化タングステンナノワイヤー / 透過型電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
微細素子は、その特性を決定する物質と電子を注入するナノメートルサイズの電極(ナノ接点)で構成されているため、ナノ接点部の構造と物性を同時に観察する必要がある。ナノ接点の構造、透過率、コンダクタンスを3つ同時に観察し、これらの関係からコンダクタンスが量子化する/しない理由を解明するため、極低温装置を必要としない新しい室温下ショットノイズ解析の手法開発を行った。 室温下ショットノイズ解析は、電圧印加部、高周波測定部、ロックイン検波と同期システムで構成されるが、ノイズ解析はナノ接点で発生したノイズのみを極力測定することが望ましいため、これらの設計開発が極めて重要である。27年度は電圧印加部、高周波測定部の開発を行った。電圧印加部は、ファンクションジェネレータの高周波ノイズを分離し、矩形波を印加できるようにするため、接続するバイアスティーの特性が極めて重要である。この実験要件を満たすバイアスティーの選定を行った。電圧印加部をゴニオメーターへ接続し、透過型電子顕微鏡で金ナノ接点を観察しながら電圧印加を試みところ、構造変化の影響を極力小さくする必要があることがわかり、ショットノイズ解析を行うにあたり重要な見識が得られた。 次に高周波測定部の開発を行った。高周波測定部は試料で発生した信号から高周波成分と低周波成分を分離する必要があり、電圧印加部と同様に接続するバイアスティーとケーブルの特性が極めて重要である。バイアスティーの選定と高周波ノイズを極力減衰させないように高周波ケーブルの選定を行った。電圧印加部の試験の際、印加電圧が大きいと構造変化が起こることが分かったため、印加電圧が小さい場合にもノイズを測定できるように1000倍のアンプを取り付けた。ナノ接点で発生したノイズのみを極力測定することが望ましいため、アンプのノイズ特性を調べる必要があり、スペクトルアナライザーを取り付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
室温下ショットノイズ解析は、電圧印加部、高周波測定部、ロックイン検波と同期システムで構成され、これらの設計開発および動作試験の後にナノ接点のコンダクタンスを測定する装置へ組み込む。現在までに電圧印加部、高周波測定部の設計開発を行い、概ね順調に進捗している。 電圧印加部は、ファンクションジェネレータの高周波ノイズを分離し、矩形波を印加できるようにするため、バイアスティーを用いた回路の設計を行った。ナノ接点のコンダクタンスを精度良く測定するためには、バイアスティーに精密な直流測定をするための回路が必要になるが、そのようなバイアスティーは高価であることと、事前に直流コイルの抵抗をLCRメータで測定すれば解決するため、帯域0.1MHz~6GHzで挿入損失の小さいバイアスティーを組み入れた。電圧印加部をゴニオメーターへ接続し、透過型電子顕微鏡で酸化タングステンナノワイヤーおよび金ナノ接点を観察しながら電圧印加を試みところ、透過電子顕微鏡の電子線の影響で、過去の文献より十分小さい電圧を印加しなければ構造変化が大きいということがわかったため、それを考慮した高周波測定部の設計を行った。 高周波測定部は試料で発生した信号から高周波成分と低周波成分を分離する必要があり、バイアスティーの選定と高周波ノイズを極力減衰させないように高周波ケーブルの選定を行った。帯域0.1MHz~6GHzで挿入損失の小さいバイアスティーを組み入れ、高周波ケーブルは6GHzまで低損失なものを組み入れた。印加電圧が小さい場合にもノイズを測定できるように1000倍のアンプを取り付けた。ナノ接点で発生したノイズのみを極力測定することが望ましいため、アンプのノイズ特性を調べる必要があり、スペクトルアナライザーを取り付けた。
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今後の研究の推進方策 |
透過電子顕微鏡の電子線の影響で、過去の文献より十分小さい電圧を印加しなければ構造変化が大きいということがわかったため、印加電圧が小さい場合にもノイズを測定できるように高周波測定部の改良を進めていく。また、ロックイン検波と同期システムの構築を始める。ロックインアンプ2台、ファンクションジェネレータおよびLabviewを用いて構築を行う予定であるが、パワーメータと別にスペクトルアナライザを導入するため、スペクトルアナライザを用いて、特性周波数のパワーをリアルタイムで測定できるように改良する。 別に研究を進めていた、走査トンネル顕微鏡を用いた有機分子の電気伝導測定において、新しい実験手法によって電極構造や分子の構造が視覚化できるようになり、極めて興味深い実験結果が得られるようになってきた。この新しい手法にショットノイズ解析を用いればより詳細な透過率が求められる他、分子振動や電極の原子の動きなどがコンダクタンスへ及ぼす影響を調べられる。また、この走査トンネル顕微鏡は、磁場を印加できる新しい走査トンネル顕微鏡であるため、磁場を印加した際のナノ接点のコンダクタンスやスピンの状態などが観察できる可能性があり、極めて新規性が高く興味深い研究が行える。これらの研究は緊急性を要するため、先に走査トンネル顕微鏡へ室温ショットノイズ解析のシステムを導入し、金、プラチナのナノ接点におけるショットノイズ解析を行い、電圧印加部、高周波測定部、ロックイン検波と同期システムの動作試験を行う。
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