本研究「フォノン共振器と量子ナノデバイスのエネルギー変換」では、半導体表面のナノ構造によって形成したフォノン共振器中のフォノン系と量子ナノデバイスの電子系とのエネルギー変換に関する基本技術を確立することを目的として研究を進めている。具体的には、GaAs半導体表面に作成した周期的金属パターンにより表面弾性波フォノンの禁制帯や共振器を形成し、半導体中の二次元電子で形成される量子ドットや量子ポイント接合などの量子ナノデバイスのおけるフォノンとの相互作用を変調し、フォノン版共振器量子電磁力学の原理を応用して、電子系とフォノン系とのエネルギー変換を実現することを目指している。 平成27年度は、表面弾性波共振器中の二重量子ドットを用いて、フォノン散乱の増強(約80倍)を観測し、研究目的としていたエネルギー変換のうち「フォノンから電子状態への変換」を達成した。 平成28年度は、「電子状態からフォノン」へのエネルギー変換を観測するために素子構造の改善を図り、半導体表面の金属の種類(弾性的性質)や設計寸法の最適化によってフォノン共振器の特性を向上させるための指針を得た。さらに、二重量子ドットにおけるスピン反転のフォノン支援トンネルに注目した研究を行ない、ラビ分裂に起因する共鳴フォノン支援トンネル条件のシフトを明らかにした。Lindbladマスター方程式による数値計算により実験結果をよく再現することも確認した。これらの結果は、フォノンと電子系とのエネルギー変換がコヒーレントに行われ、両者が強く結合したドレスト状態が形成できていることを示唆している。当初の具体的計画よりも高度なコヒーレント結合を実現することに成功した。 このように、研究期間全体を通じてフォノン版共振器量子電磁力学への創造に向けての挑戦的で萌芽研究を進めることができた。
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