研究実績の概要 |
炭素単原子層「グラフェン」に各種方法でスピン軌道相互作用(SOI)を導入し、2次元トポロジカル絶縁体(TI)状態を実現、それに基づく諸物理現象を探索する事を目的とした。前年度までにグラフェン表面の微量水修飾(< 0.1%)に成功し、それによる面直方向の対称性破壊がもたらすラシュバ型SOIの導入を実現、その有効磁場が拡散電気伝導領域におけるスピン位相の破壊を抑制する可能性を指摘した。今年度は、白金やビスマステルルといった質量が大きくSOIの強いナノ金属微粒子をグラフェン上に微量散布(<< 1%)する方法を新たに開発、その試料において非局在抵抗(RNL)のバックゲート電圧依存性を測定し、RNLピークの確認、つまりSOIの導入に成功した。観察されたRNLピーク値のチャネル長依存性、面内磁場印加によるRNLピークの振動的振る舞い(スピンのラルモア歳差運動)を過去の理論と比較してよく一致する事を確認、巨大なSOIが存在し、(逆)スピンホール効果が発生することを解明した。また、その発現機構を微粒子のp,d軌道スピンとグラフェンのディラック点との相関において議論した。ただしビスマステルルは3次元TIとして知られているにもかかわらず、今回の測定では量子SHEはまだ確認できておらず、グラフェンは2次元TI状態にはなっていない可能性が高い。ナノ微粒子化したビスマステルルがもはらTI状態を保持していないことがこの一因と考えられるが、今後この原因を究明しグラフェンならではの2次元TI化を実現、その特異な物性を究明したい。
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