研究実績の概要 |
本研究では、CrystEngComm (2014, inside front cover)で報告した高透明性を有する酸化亜鉛薄膜(n型無機半導体)の低温・溶液プロセスによる安価・簡便作製法を発展させることを目的とした。低温・溶液プロセスで作製できるペロブスカイト結晶薄膜を用いた太陽電池は、20%の光変換効率を超え、その急速な発展と世界的な開発競争になっている。その中で、当該ペロブスカイト層の上下に利用されるn、p型無機半導体ナノ薄膜の低温・溶液プロセス作製法の開発も喫緊の課題として重要な位置づけになってきた。ここでは、当初の金属酸化物に留まらず、金属ハライド・金属硫化物など、無機半導体全般から、低温・溶液プロセス製膜法の開発とその課題を整理し、ペロブスカイト太陽電池やLEDなどへの応用に向けた展開を期待して研究を進めた。透明p型無機半導体として、従来のヨウ化銅、チオシアン酸銅薄膜の低温・溶液プロセスの問題点を解決し、特許出願を行った。具体的には、毒性・臭気・高価な溶剤であるチオエーテルで作製していたヨウ化銅、チオシアン酸銅薄膜を、安価・毒性のないアルコール系溶剤で作製できる手法を開発した。この薄膜は、前者の溶剤に比べ、結晶成長は良好であると同時に、50 nm程度の厚みの薄膜でありながら、ピンホール、ボイド、クラックが生じないこと、また、ガラス、ITO、FTO、樹脂基板にも良好に固着する点を特徴としている。そのヨウ化銅、チオシアン酸銅薄膜を用いてペロブスカイト薄膜太陽電池を作製したところ、NiO薄膜と同等の光変換効率を示す結果を得ている。また、ヨウ化銅、チオシアン酸銅薄膜から金属カルコゲン薄膜に変換する簡便な手法の開発にも成功した。更に、そのヨウ化銅薄膜を用いた多層膜の作製にも着手し、resistive switching memory機能が発現することも見出している。
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