一酸化窒素(NO)は免疫・呼吸器・循環器系等の多くの生体システムの制御に重要な役割を果たす生理活性物質として知られる反面、有毒ガスとしても認知されており、作用させるタイミングや暴露量を誤れば重大な副作用をもたらす。いわば「諸刃の剣」であるNOの医科学的な利活用には、「必要な時」に「必要な分量」だけNOを作用させるNOの制御放出技術の確立が極めて重要となる。本研究は、非侵襲的に生体透過能の優れる磁場の特長を活かした全く新しいNO制御放出技術として、熱分解してNOを放出する化合物と磁性ナノ粒子を均一に複合化・適度な大きさとしたナノ複合体から、外部磁場をトリガーとしてNOを放出させる技術の開発をめざした。 NO放出化合物のスクリーニング、溶媒蒸発法を用いたナノ複合体合成、NO制御放出実験、および細胞毒性評価試験を行うことにより、交番磁場の印加時のみにNOを放出する低細胞毒性なNO放出ナノ複合体の合成に成功した。従来、「必要な時」に「必要な分量」だけNOを供給できないことが狭心症以外の疾患・障害治療への問題となっていた。磁場をトリガーとするNOの制御放出技術の確立は、NOが実際に作用している生体深部での制御放出実現に向けた画期的なブレイクスルーであり、医科学的見地から極めて重要である。生活習慣病や虚血・再灌流障害をはじめとする既存のNO供与体では対処できない疾患治療に向けた重要なマイルストーンになると期待される。
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