本研究では、学術的・工学的な観点から非常に魅力的な材料であるグラフェンについて新規創製法を提案することを目的とした。 出発材料として高配向性熱分解黒鉛(HOPG)を用い、HOPGを作用極、リチウム金属を対極、参照極とした三電極式セルを構築した。電解液にリチウムビス(フルオロスルフォニル)アミド(LiFSA)を溶解した炭酸エチレンと炭酸ジエチルの混合溶液を用いた。サイクリックボルタンメトリー測定および定電流充放電測定により、FSAアニオンをHOPGに可逆に挿入脱離することを明確にした。設定電位を制御することで、全ての黒鉛層にFSAアニオンが挿入されたステージ1黒鉛層間化合物、黒鉛層に一層おきにFSAアニオンが挿入されたステージ2黒鉛層間化合物の合成が可能であることが明らかとなった。また、リチウム塩としてリチウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)アミド(LiTFSA)を用いた場合も同様なステージ構造が得られたが、FSAアニオンの方が可逆性に優れていた。 得られたステージ1黒鉛層間化合物をアルゴン雰囲気に300℃で加熱した結果、層間内部でFSAアニオンが分解し、膨張黒鉛が得られたが、こちらを溶液中で超音波撹拌しても明確な分解生成物は得られなかった。さらに、得られたステージ1黒鉛層間化合物のイオン液体中での加熱を試みた。トリエチルオクチルホスホニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(P2228TFSA)は380℃で分解したため、P2228TFSAにステージ1黒鉛層間化合物を浸漬し、350℃で加熱した。その結果、ステージ1黒鉛層間化合物が膨張し、イオン液体が黒色に変色したが、イオン液体中にグラフェンの明確な生成は認められなかった。加熱温度が低いためか、昇温速度が遅いために、十分にステージ1黒鉛層間化合物の分解が進行していないことが考えられた。
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