超弾性あるいは形状記憶効果は、結晶相の応力誘起相変態に起因する。ジルコニア単結晶体も超弾性や形状記憶効果を示すことが報告されており、応力によって正方晶から単斜晶に相変態する。その最大ひずみは理論上15%に達するが、現実のジルコニア系セラミックス(多結晶体)の最大ひずみは2%以下である。 本研究では、広範囲の応用が期待できる超弾性セラミックスの創出を目指し、正方晶ジルコニア・ナノファイバー単結晶体からなるセラミック・ファブリックの合成とその力学的および生物学的特性の評価を行う。 平成28年度においては、まず、水熱処理法によって形状(繊維径および繊維長)の異なる単斜晶ナノファイバーを調製し、安定化イオンであるイットリウム含む塩と混合した後、前年度の検討によって最適化した処理条件下において正方晶へ結晶相を変換した。得られた各種のジルコニア・ナノファイバーの密度を変化させて成形して機械的試験を行った結果、本研究で行った条件では、長繊維のナノファイバーを高密度に充填することで曲げ強さが向上する傾向を示した。ここで、単斜晶ジルコニア・ナノファイバーと比較して正方晶ジルコニア・ナノファイバーでは最大ひずみおよびレジリエンスが向上した。また、ジルコニア・ナノファイバー成形体に歯科用レジンを複合化させ、歯科用レジンと細胞増殖挙動を比較した結果、有意な為害性の差は認められなかった。 以上のように、平成28年度の検討によって、ジルコニア・ナノファイバーの形状および密度が機械的特性および細胞増殖挙動に与える影響を明らかとした。
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