グラフェンは、極めて高いキャリア移動度や電気伝導性、光透過性などから、半導体デバイスやタッチパネルを中心とするエレクトロニクスへの応用が主として進められてきた。一方、その機械的柔軟性や生体親和性からバイオテクノロジーへの応用も期待されるが、これまで研究はほとんど行われていない。本研究では、機械的にロバストな多層グラフェン、およびそのチューブ構造の合成を新たに試みることを一つの大きな目的として研究を進めてきた。そして、このようなグラフェンチューブを用いて、人工血管への可能性を検討することをもう一つの目的とした。 本研究では、グラフェンのCVD合成において金属触媒の組成や形状を制御することで、均一性が従来よりも優れた多層グラフェンを作製することができた。さらに金属ワイヤーを触媒として用い、かつCVD条件を検討することで、金属ワイヤーが熱で溶融して形状を失うことなくチューブ状の多層グラフェン構造を得ることもできた。また、ウェットエッチングにより金属ワイヤーを溶解・除去できることも分かった。人工血管の可能性を探索するため液体を流す研究も行った。機械強度が十分でなく、液体のリークが生ずることが明らかとなった。これは、今後、多層グラフェンの層数均一性やグレインサイズの増大を進める、あるいは高分子で保護することにより解決できるものと考えられる。 また、研究計画から発展して、多層グラフェンを用いた歪みセンサーの作製もできるようになった。クラックを介した高い歪み感度も得られることが実験的に明らかにできた。 このように多層グラフェンのCVD成長に重要な知見が多く得られ、かつ歪みセンサーなど新たな用途が開発できたことは評価できると考える。
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