研究実績の概要 |
本研究の目的は、液体の表面での「その場積層」という汎用性の高い新しい積層膜作製法を確立し、そのことにより様々な無機、有機材料系で大面積かつナノスケールの膜厚を有するフレキシブルな積層膜を実現することである。平成27年度は、モデル系としてBaTiO3/ポリ乳酸の無機/有機系、BaTiO3/SrTiO3、BaTiO3/Nb:SrTiO3の無機/無機系を検討した。下層液としては、流動パラフィン、1,1,2,2-テトラブロモエタンを比較した。両下層液上で作製したBaTiO3膜はいずれも組成ずれがなく、低温熱処理でBaTiO3結晶を生成した。表面張力が大きい1,1,2,2-テトラブロモエタンの場合は、得られる膜の膜厚は流動パラフィン上よりも薄く、大面積の膜を得ることが可能だった。流動パラフィン上では、膜厚40nm~数百nm、アスペクト比10000~100000程度の膜が、1,1,2,2-テトラブロモエタン上では、膜厚10nm程度、アスペクト比10000000もの大面積の膜が得られた。BaTiO3/SrTiO3、BaTiO3/Nb:SrTiO3では、走査電子顕微鏡の反射電子像から、BaTiO3ゲル膜表面にSrTiO3とみられる数十nmより薄い膜が積層していることが観察された。BaTiO3/ポリ乳酸積層膜については、PETシートなどの基板に転写し、微構造観察を実施中である。その場積層によってBaTiO3膜上に形成されたポリ乳酸膜は数nmオーダーで分析が困難であるが、下層液上のBaTiO3ゲル/ポリ乳酸積層膜をPETシート上に複数回転写して得たBaTiO3ゲル/ポリ乳酸/BaTiO3ゲルのサンドイッチ構造を観察し、BaTiO3ゲル間に数nmの薄層の存在を確かめた。この層の厚さは、予想される平衡膜厚と同じ膜厚領域であるため、膜形成メカニズム解明の手がかりとなると考えられる。
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