研究課題/領域番号 |
15K13308
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
折井 孝彰 国立研究開発法人理化学研究所, イノベーション推進センター, 上級研究員 (60321741)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クラスター級ナノ粒子 / サイズ選別 / 電気移動度分析器 / ケルビン効果 / 蒸発過程 / 表面張力 |
研究実績の概要 |
ナノ粒子はサイズに依存してバルクと異なる物性を示すことが知られており、このサイズに依存する特性を研究するためにも、また、利用するためにも有用なサイズのナノ粒子を選別する技術は重要である。しかしながら、微小なクラスター級ナノ粒子のサイズ選別は現在でも困難である。このサイズ選別を困難にする理由の一つがケルビン効果によりナノ粒子が不安定になることにあり、本研究では不安定性に起因するサイズ選別の不確実性を解決するために平板型2層式DMAを提案し、高速なサイズ選別技術の開発と微小ナノ粒子の蒸発過程の観測を目的としている。 本年度は、微小ナノ粒子の蒸発過程の観測に用いるタンデムDMAシステムを構築するため、まず2台目の平板型単層式DMAを製作し、27年度に製作した単層式DMAおよび平板型2層式DMAと合わせて、天然のサイズ標準粒子としてフラーレン(C60)を用いてサイズ選別の性能評価を行った。この結果、軽微ながらもサイズ選別性能に個体差のあることが確認された。各DMAの部品の加工精度、組立精度および周辺機器の精度等について慎重に検討した結果、周辺機器の精度不足が主な原因であることが判明し、より高精度な機器を整備することにより改善された。次に、2台の平板型DMAに直接接続可能で室温から約300℃までナノ粒子を加熱することが可能な反応器を製作し、タンデムDMAシステムを構築した。タンデムDMAシステムについて、フラーレンを用いて1nm領域のナノ粒子の検出効率についての検討を行った。その結果、想定より検出効率が低いことが分かり、比較的安定なナノ粒子に対しては2台の単層式DMAを用いたタンデムシステムが適当であり、不安定なナノ粒子に対しては単層式DMAと2層式DMAを用いたタンデムシステムが適切かつ十分であるとの知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年度(27年度)の研究実施場所の変更に伴う数カ月の遅れに加え、他に例のない測定装置を構築して極めて小さい領域のクラスター級ナノ粒子を高精度かつ高速でのサイズ選別を可能にしようとしているため、計画段階では予期し得なかった問題点を修正する必要があった。特に本年度整備が完了した複数のDMAのサイズ選別性能を比較することにより、初めてDMA単体の製作精度のみならず、周辺機器の動作精度のバラツキにも原因があることを特定するのに時間を要した。その結果、予定していた測定装置であるタンデムDMAシステムの構築までは概ね完了したものの、これを用いた不安定なクラスター級ナノ粒子の蒸発過程の測定までは実施することが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定を1年延長し、構築が完了したタンデムDMAシステムを用いて、まず粒径50nm程度の十分大きな高分子ナノ粒子の蒸発速度の測定を行い、理論値との比較、測定システムの妥当性の検討を行う。また、ナノ粒子の表面張力を見積り、バルクの表面張力の既報値との比較を行う。次に、より小さなシングルナノ領域での蒸発速度のサイズ依存性を十分な精度で測定し、古典核生成理論で説明可能なサイズ領域と表面張力のサイズ依存性を見極め、当初の研究計画を完成させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンデムDMAシステムの構築のための予算は概ね計画どおり使用したが、構築した測定装置を用いて実際のナノ粒子の蒸発速度の測定実験を十分に行う事が出来なかったため、蒸発現象を観測するサンプルの材料費、装置の運転に必要なガス代等の消耗品に充てる予算の一部が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度に繰り越された予算額は多くはないが、サンプルとなる高分子、金属等および溶媒、ガス等の消耗品に充てて信頼性の高いデータを取得するには必要十分である。また、得られた結果を学会および論文での発表に掛かる経費で使用する計画である。
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