研究課題/領域番号 |
15K13310
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮脇 淳 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 主任研究員 (20358138)
|
研究分担者 |
久保 利隆 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 研究グループ長 (70344124)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 二次元層状物質 / プラズマ / エッチング |
研究実績の概要 |
本研究では、次世代超低消費電力デバイスの実現のため、二次元層状物質の高品質な加工技術の開発を進めている。二次元層状物質の持つ物性を最大限に引き出すには、機能の源泉となる結晶性が良い単層の原子薄膜を用意すること、すなわち膜厚の一層単位の精密制御が必要不可欠である。我々の独自技術である加工残渣の少ない吸引型プラズマを最適化することにより、層状化合物のデジタルエッチングの可能性を検証し、プラズマによる欠陥の低減・制御に向けた検討を行った。 本年度は対象試料として二硫化モリブデンを用いた。吸引プラズマの装置形状や条件を変化させて四フッ化炭素ガスによるエッチングを行い、試料表面を走査プローブ顕微鏡を用いて観察することにより、デジタルエッチングの可能性を検証した。層制御が可能なエッチングレートと、エッチングのアスペクト比を最適化するための条件探索を行った結果、15層毎秒程度のエッチングレートで原子層を剥離した後に、サブミクロンオーダーのテラス領域を残すことに成功した。また、エッチング進行メカニズムとして、初期段階に広いテラス上に穴状の欠陥形成が始まり、その欠陥からは縦方向よりも横方向に優先的にエッチングが進行することにより、テラスの形成が進行して行くことを明らかにした。このメカニズムを実証するために、計算によるシミュレーションも開始した。一方、エッチング後の表面には多数の欠陥が残留しており問題となることが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は対象試料として二硫化モリブデンを用い、吸引プラズマの装置形状や条件を変化させてエッチングを行い、試料表面を走査プローブ顕微鏡を用いて観察することにより、デジタルエッチングの可能性を検証した。その早期過程で、キャピラリの熱膨張による伸長が原因となる条件の変化が現れるなど予期出来なかった問題が生じた。それを抑えるための対策などに時間を取られ計画がやや遅れたたものの、それを克服し安定したプラズマ条件を確立した後は、エッチングにより原子層レベルの剥離を行い、サブミクロンオーダーのテラス領域を残すことに成功した。また、テラスの形成プロセスをシミュレーションと合わせて明らかにできた。一方、エッチング後の表面には多数の欠陥が残留しており、表面の品質上問題となることが判明し、現在その対処法に困難が生じている。しかしながら、全体としてはおおむね計画通りに順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、前年度得られた条件をさらに絞り込み、エッチングの大面積化と高品質化を図る。大面積化では、面内に最初の欠陥を導入するモードと同一層内の横方向に優先的にエッチングを進行させるモードの動的過程が条件によりどう異なっていくのかを、走査プローブ顕微鏡を用いた実験的な形状評価に加え、計算シミュレーションによる理論的検証も用いて検討し、エッチングメカニズムの解明を行う。縦方向では初期欠陥の生成過程を、また横方向ではマクロ領域においてのステップやテラスの形状・サイズがどの様に変化していくのかを検討し、デジタルエッチングの大面積化を図る。一方、エッチング後のテラスに残ってしまう欠陥は、電子状態の変調を通じて材料の基本物性へ大きな影響を与えるなどの問題となるため、構造やサイズ、密度がどのようにエッチング条件に依存するかを調べるとともに、生じた欠陥を高温加熱による原子再配列で消滅させて完全な結晶に戻すなどの方法により、高品質化を図る。エッチングにより一層毎に制御して剥離した薄片の大面積化と高品質化により、電気的、光学的物性を評価することのできる試料を作成し、デバイスに適用可能なレベルまで引き上げる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、初年度に単原子層エッチングを高度に制御するために欠かせない装置である、プラズマエッチング時にサンプルとプラズマ吸引管位置関係を精密に位置決めするための「試料精密位置決め加工装置」を購入する予算を計上していた。しかしながら、研究の早期にキャピラリーの温度変化による伸びが原因となる条件の変化が予期した以上に大きく問題があることが判明し、その対策が優先された。そのため、試料精密位置決め装置を導入することが遅れ次年度使用額として生じた。なお、確立されたキャピラリーの伸びを抑える方法は特許として出願するに至った。
|
次年度使用額の使用計画 |
キャピラリーの温度変化による伸長を抑制することで、より安定した吸引プラズマエッチングを行うことが出来るようになり、試料精密位置決め加工装置を導入する下地が整った。次年度の助成金と合わせて早急に導入し、更なる最適化条件の絞り込みを行う計画である。
|