本研究では、次世代超低消費電力デバイスの実現のため、二次元層状物質の高品質な加工技術の開発を進めている。二次元層状物質の持つ物性を最大限に引き出し、実際に電子デバイスに適応するには、機能の源泉となる結晶性が良い単層の原子薄膜を用意すること、すなわち膜厚の一層単位の精密制御が必要不可欠である。我々の独自技術である加工残渣の少ない吸引型プラズマを最適化することにより、層状化合物のデジタルエッチングの可能性を検証し、プラズマによる欠陥低減・制御に向けた検討を行った。 対象試料として二硫化モリブデンを用い、吸引プラズマの装置形状やエッチング条件を変化させて四フッ化炭素ガスによるエッチングを行い、試料表面を走査型プローブ顕微鏡を用いて観察することにより、デジタルエッチングの可能性を検証した。層制御が可能なエッチングレートと、エッチングのアスペクト比を最適化するための条件探索を行った結果、15層毎秒程度のエッチングレートで原子層を剥離した後に、サブミクロンオーダーのテラス領域を残すことに成功した。また、エッチングメカニズムとして、初期段階に広いテラス上に穴状の欠陥形成が始まり、その欠陥からは縦方向よりも横方向に優先的にエッチングが進行することにより、テラスの形成が進行していくことを明らかにした。このメカニズムはモンテカルロ法を用いた計算シミュレーションにより検証された。一方、エッチング後の表面には多数の欠陥が残留しており、デジタルエッチングに対しては問題となることが判明したため、この欠陥を熱処理により低減させることを試みた。
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