研究課題/領域番号 |
15K13312
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
陶山 明 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (90163063)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | DNAデバイス / ナノテクノロジー / 自己集合 / DNAナノ構造体 / 3Dプリンター / 積層造形 |
研究実績の概要 |
現在、DNA鎖の自己集合により様々な形のDNAナノ構造体をつくる研究が、新しいナノテクノロジーの一つとして注目されている。しかし、三次元DNAナノ構造体をつくろうとすると、一辺の長さの3乗に比例する数の特異性の高いDNA配列が必要になる。そのため、一辺が100ナノメートルを超える三次元DNAナノ構造体は実現していない。 この問題を解決するために本研究では、DNAインクにより、マクロスケールの三次元プリンターで用いられている積層造形法をナノメートルスケールで実現することを計画した。これにより、必要なDNA配列が一辺の2乗に比例する数に減るため、ナノメートルの空間分解能とマイクロメートルの大きさをもつ任意の形状の三次元DNAナノ構造体をつくることが可能になる。 本年度は、研究目的を達成するために、基板となる第0層とその上に形成される第1層を作成する方法の開発に着手した。第0層はDNAオリガミ、その上の第1層はDNAインクで作成する予定であったが、第0層の作成も可能なDNAインクを開発することで、第0層も含むすべての層が同じDNAインクで作成できるように研究を進めた。 積層造形法を実現するためのDNAインク粒に必要な性質は、1)粒が下層の指定された位置に付着する性質、2)固着するか否かを粒ごとに選択できる性質、3)付着したのち粒が平面状に広がり新しい下層を形成する性質の3つである。これらの性質をすべて満たすDNAインクを実現するために、DNAインク粒のナノ構造体をいくつか考えて検討した。その中で2つの構造体を選び、実際にDNAインクを作成して性質を調べた。 蛍光を利用した融解曲線と形成曲線の測定、および原子間力顕微鏡による構造観察の結果、作成したDNAインクが性質1と性質3を満たすことを確認した。これにより、DNAインクによるナノスケールでの積層造形法の実現に向けて一歩前進した。-
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画にあった、鋳型依存のDNA光化学反応による断面構造の安定化の実験、すなわち、DNAインク粒に求められる性質2を調べる実験が実施できなかった。これは、DNAインク粒をつくるために使用するDNA配列の設計が遅れたためである。 DNA相補鎖のハイブリダイゼーションを利用してDNAインク粒を下層の指定された位置に付着させる反応は、下層が十分に安定な低い温度で行われる。そのため、このように低い温度でも、ハイブリダイゼーション速度の低下をもたらす安定な自己二次構造を形成しない配列を使用する。しかし、そのような配列であってもハイブリダイゼーション速度が配列によって二桁も異なる。その大きな違いをDNA配列から予測できるようにする研究が遅れたため、DNAインクの配列設計が遅れてしまった。 なお、積層化のための流路の作製と流路中での積層実験も実施しなかった。これは、とくに積層化のための流路を作製する必要がないことが判明したからである。DNAオリガミではなく第0層もDNAインクで作成したため、第0層がDNAオリガミの場合よりはるかに大きくなり、インク粒より十分に強くマイカ表面へ吸着されるようになったからである。ー
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に作成したDNAインクが、必要とされる性質2、すなわち、インク粒が固着するか否かを粒ごとに選択できる性質を有しているかを確認する実験をまず行う。その後、当初計画通り、中空の無い立体構造の作成、中空のある立体構造の作成へと研究を進める。 当初計画では、作成したDNAインクの性質を調べるためにゲル電気泳動も利用することになっていた。しかし、蛍光分子を利用した融解曲線と形成曲線を測定する方法の方が簡便で情報量も多いことがわかったので、ゲル電気泳動は使わず、これらの曲線の測定と原子間力顕微鏡による観察で研究を進めることにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況に合わせて予算を執行するため
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の決定額と合わせて執行
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