研究課題/領域番号 |
15K13314
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 祥彦 京都大学, iPS細胞研究所, 助教 (60589266)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | RNA switch / miRNA |
研究実績の概要 |
細胞の中には多数のRNAが存在しており、その中にmiRNAと呼ばれる短いRNAが存在する. ヒト細胞では1800種類以上のmiRNAの候補が見つかっており、細胞ごとにその発現プロファイルが異なるため、miRNAの発現で特定の細胞を特徴づけることができる. そのため、特定のmiRNAが存在する細胞のみを選択的に細胞死に導くシステムは、がん細胞の特異的な除去や、分化細胞の選別において重要である. 今年度は、申請書に記載の研究目的(3)の細胞内に存在する特定のRNA(miRNA)に応答して 細胞死を引き起こすシステムの構築を目指した. そのために、miRNAに応答してタンパク質の翻訳がONになるRNAの作製を行った. その結果、細胞に導入するとターゲットのmiRNAが発現している場合に蛍光タンパク質の発現が増大するRNAの設計に成功した. 少なくとも作製した2種類(miR-21とmiR-302応答型RNA)はともに対応するmiRNAに反応し蛍光タンパク質の発現を増大させることができ、iPS細胞、293FT細胞、HeLa細胞など複数の細胞を区別することができた. このRNAは、(1)簡単にターゲットのmiRNAを交換できる、(2)出力のタンパク質を交換することができる、(3)ゲノムへの影響が無いため医療応用へ直接結びつく、(4)一般的な分子生物学の知識と実験技術があれば、誰でも作成可能であることなどの特徴を持っている. そのため、出力のタンパク質をアポトーシス遺伝子へ変更することで、目的である特定細胞で細胞死を誘導する技術へ利用可能であると期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は原子間力顕微鏡によるナノ構造の確認とナノ構造による細胞死誘導を最初に行う予定であったが、計画を変更して最終目標である、研究の目的の(3)からとりかかることになった. これは、研究代表者の所属が変わったため、旧研究室の原子間力顕微鏡が一時的に利用できなくなったためである. そのため、やや当初とは異なる手法であるが先に最終目的の達成を目指した. この際に、研究目的(1)、(2)にある細胞内でのRNA応答性のRNAナノ構造の構築につながるように、細胞内RNAに応答するRNAデバイスの作製とRNAの細胞内導入という手法を選択した. 現在までに、少なくともmiRNAに応答するRNAを細胞内へ導入することが可能であることが確認され、今後、miRNAの応答配列を導入したRNAナノ構造を作製することで細胞内のRNA(miRNA)に応答するナノ構造が構築できると期待される. 現在、最終目的である細胞特異的な細胞死を行うため、蛍光タンパク質からアポトーシス遺伝子への交換とON/OFFの比の改善を行っている. また、旧研究室から原子間力顕微鏡の譲渡、移設も完了したのでナノ構造の構築、解析の準備も整った.
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今後の研究の推進方策 |
計画書と順序は逆になったが、先に細胞特異的な細胞死を起こすシステムを確実に構築することにする. これにより、研究計画の重要な意義の一つ(医療や細胞工学への応用)を先にクリアし、がん細胞の除去や分化細胞の選択的な取得などの社会への還元を達成しておきたい. これは今年度中に確実に終了できると思われる. 並行して、当初の計画通りナノ構造の設計、構築を行い、学術的な意義である細胞内でのナノ構造構築手法の確立を目指す. 細胞内ナノ構造の構築については、昨年度作製したmiRNA応答型のRNAの実験から、RNAを細胞外で構築して細胞内に導入することが予想外に容易であること、プラスミドで導入しないことでゲノムへのDNA挿入の危険がなく医療応用の幅が広がることから、構造は細胞外で作製して細胞へ導入するという方針を取りたい. この方針では、細胞外で構造を構築するため、AFMで観察したものをそのまま細胞内部に導入することができるため、細胞内で構造が構築されるかどうかという問題を考えなくて済むという利点もある. また、細胞内のRNAとしてはmiRNAが確実に導入RNAに作用することが確認されたため、構造を制御する細胞内RNAとして、まずmiRNAをターゲットとする. 今後は、細胞外でのRNPナノ構造構築を行い、AFMの観察を行い、その後細胞内へ導入して機能が細胞内miRNAによって制御できることを示す. 最後に、最も難しいと思われる、細胞内で転写されたRNAとタンパク質を用いたRNPナノ構造の構築を行い、当初の計画全体を達成したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、研究で購入する予定であった試薬等が移動先の研究室にすでにあり、購入する必要がなかったため、ほとんど使用しなかった. また、AFMのカンチレバーについても、AFMが移設中であったため、購入していない.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、AFMの移設が完了したため、前年度購入を控えていた構造構築のためのオリゴDNAとAFMのカンチレバーの購入を行う. また、すでにヒト細胞内でmiRNAに応答するシステムの作製に成功したので、iPS細胞等の培地の購入にも当てる予定である.
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