本研究では、外部から導入したRNAと細胞内に存在するRNAやタンパク質を用い、細胞内でRNA-proteinナノ構造を形成させることで、細胞機能の制御を行うことを目的とした。特に、細胞内ナノ構造を利用した細胞特異的な細胞死を人工的に引き起こすことで、コンセプトの実証を行うことを目指した。この目的のために、RNAナノ構造の材料として、K-turnと呼ばれるRNA構造とK-turnに特異的に結合することが知られているL7Aeタンパク質を選択した。K-turnとL7Aeの結晶構造を組み合わせ、RNA-タンパク質複合体をデザインし、複合体が予想通りの構造を取ることをAFMで確認した。また、アポトーシス遺伝子であるCaspase8の多量体形成ドメインとL7Aeを入れ替えた融合タンパク質を発現させた細胞に、人工的にデザインしたK-turnをもつRNAを細胞内へ導入することで、細胞内でナノ構造体を構築し、ナノ構造上でCaspase8を多量体化さアポトーシスを誘導することに成功した。 また、細胞内分子の別のターゲットとしてmiRNAについても検討を行い、新たにmiRNAの活性に応じて翻訳が増大するmRNAスイッチの構築に成功した。蛍光タンパク質をコードしたmRNAスイッチを用いることで、HeLa細胞、293FT細胞、iPS細胞の識別に成功した。さらに、HeLa細胞と293FT細胞をモデルとして、細胞内miRNAを指標としてセルソーターを用いない細胞分離法を確立した。このmRNAスイッチはがん細胞除去や移植用の特定の細胞の取得において、ゲノムへのDNAの挿入のリスクのない安全な手法になると考えられる。
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