酵素によるバイオ発電によって表皮細胞の遊走が制御できることを示し、この仕組みを皮膚パッチに搭載する研究を行った.培養液に含まれる糖分と大気中の酸素を利用して、表皮細胞の遊走促進に適した電流(イオン流)を発生させるために、酵素電極の性能向上に加えて、パッチ構造の最適化が必要であった.培養した表皮細胞の遊走に対する電流印加の効果をパッチ搭載の内部抵抗で変化させて系統的に調べながら、パッチ構成材料の最適化を進めた.カーボン製の織物(カーボンファブリック)に界面活性剤による親水化とCNTによる比表面積の拡大処理を施してから、糖の酸化酵素を修飾してアノードを調製した.酸素カソード用の酵素にはビリルビンオキシダーゼ(BOD)を使った.検討の結果、酵素反応の結果生じるpHシフトが酵素反応の継続の妨げになることが分かり、長期間の連続発電には適切な緩衝作用を搭載する必要があるとわかった.パッチは0.5mm厚さのゲルシートを介して貼付されており、反応液の体積はこのゲルの体積に限定されるため、ここで問題となるpHシフトなどを押さえ込むのは極めて困難である.緩衝剤の種類と濃度を検討し、結果として、10マイクロアンペアの電流を12時間継続させることに成功した.このパッチをマウスの背中に作製した傷に貼付して、12時間ごとに貼り替えながら傷の様子を観察したところ、電流が流れていない場合に比して明らかな創傷治癒速度の加速が認められた.
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