本研究は,酵素によるバイオ発電によって表皮細胞の遊走が制御できることを示し,さらに,この仕組みを皮膚貼付パッチに搭載して,創傷治癒効果を評価するものである。前年度は,表皮細胞の遊走促進に適した電流(イオン流)を,果糖の酸化酵素によるアノードと,酸素の還元酵素によるカソードの組み合わせで発生させることに成功しているが,本年度は,長期駆動の妨げとなるpHシフトを押さえ込む,緩衝能に優れた反応系の構築を継続して行い,結果として,10マイクロアンペアの電流を12時間継続させることに成功した。このパッチをマウスの背中に作製した傷に貼付して,12時間ごとに貼り替えながら傷の様子を観察したところ,電流が流れていない場合に比して明らかな創傷治癒速度の加速が認められた。このシステムでは,アノードの燃料である糖は果糖(フルクトース)であり,ハイドロゲルシートに含有させて供給した。これを,創傷から染み出す組織液に含まれるブドウ糖(グルコース)による発電に発展させる取り組みを次に行なった。前年度に確立したフルクトース電極を活かし,そこへグルコースイソメラーゼを付加するアプローチを検討した。これによって,組織液中のグルコースが酵素的にフルクトースに変換され,電極反応に供される仕組みとなる。ビーカー中での予備実験では,数マイクロアンペアの電流が観測され,設計した酵素電極系が期待通りに働くことが確認できた。さらに,電極活性の安定化を半透膜被覆などで進めれば,体液で発電し,創傷治癒時には自動的に発電が止まる治癒パッチの実現が期待できる。
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