細胞における機能発現の能動的制御を目指し,金属ナノ粒子を基盤とした高機能ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発を行う.一つには,がん細胞をターゲットとした新規DDSを開発する.この新規DDSは,生体適合性,患部集積性などの特性を有するばかりでなく,イメージング性,温熱治療特性,さらにはこれまでにない薬物放出制御性を付帯させる.そしてこの新しいDDSによりがん組織の根治を目指す. 上記の目標を掲げ,昨年度はFe3O4ナノ粒子をコアとし,ナノメートルオーダーの空孔を有するメソポーラスシリカをシェルとするコアシェル構造のFe3O4@mSiO2の作製に成功した.そのサイズはコア直径が約15nm,シェル直径が90nmであり,EPR効果を発揮する当初の計画通りのナノキャリアサイズである.さらに付加的機能である,交流磁場印加による発熱も確認している.また,コアシェル型ナノ構造体Fe3O4@mSiO2の表面に,がん細胞にのみ標的指向性を有する膜透過ペプチド(tLyP-1)を修飾することを実現し,キャリアに担持させた抗がん剤(CPT)をがん細胞のみに送達することのできるDDSの開発に成功している. 最終年度は,このDDSキャリアに,常温で疎水性,加熱することにより親水性へと特性変化を示す温度応答性高分子を修飾させた.すなわちこの高分子を抗がん剤が封入されたメソポーラスシリカの空孔の栓として機能させ,ハイパーサーミアによる温熱治療を施すと同時に,抗がん剤を放出する機能を持たせた.これにより,上記のDDSをさらに高機能化させた放出制御性を有するスマートDDSの開発に成功している.このようながん細胞のみに指向し,ハイパーサーミアによる昇温と並行して放出制御が可能なDDSはこれまでになく,非常に新しいDDSと言える.
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