研究課題/領域番号 |
15K13322
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
高橋 一浩 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (90549346)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 表面プラズモン / MEMS / 有機デバイス / 可変フィルタ |
研究実績の概要 |
本研究では、フレキシブル薄膜上にアルミサブ波長格子を形成し、表面プラズモンによる光の異常透過を利用したカラーフィルタの製作を行った。フレキシブルシートとして、膜厚800nmのポリパラキシリレン(パリレンN)を用いて、EB直接描画法とリフトオフ技術によりアルミサブ波長格子を形成した。その結果、格子周期に依存した透過色の観測に成功した。また、残留応力の無視できるパリレンNを用いたことにより、100ミクロン角のエリア内で自立シートに反りのない均一な透過特性を得ることができた。さらに、サブ波長格子周期と透過波長ピークの関係は、格子間の空気・パリレンモデルでフィッティングすることによりFDTDを用いた光学解析の結果とよい一致が示された。 次に、アルミサブ波長格子の周期を拡張し、透過特性に変化を与えることを目的に、静電櫛歯アクチュエータを一体化したデバイスの製作を行った。製作した可変フィルタに駆動電圧60 Vを印加することで710 nmの可動電極の横変位を観測した。これはアルミサブ波長格子の周期を500 nmから640 nmまで拡張したことになる。また、励起波長は542 nmから668 nmまで連続的にシフトした。これらの値は理論値と一致しており、MEMSアクチュエータにより表面プラズモン励起波長の連続可変制御技術を確立することに成功した。 さらに透過光の波長選択性を向上するため、表面プラズモンの電場増強効果が可能な金属-誘電体-金属(MIM)積層構造によるサブ波長格子の作製を行った。EB蒸着によりAl(50 nm)-SiO2(150 nm)-Al(50 nm)を順に成膜し、ナノインプリントによるリフトオフによって、最少500 nmの周期を持つ自立構造の形成に成功した。このMIMカラーフィルタは透過ピークの透過率が80%以上を示し、輝度の向上を示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していたフレキシブル薄膜上へのサブ波長金属構造形成とプラズモン励起によるカラー表示の実現に成功し、さらに機械的ひずみの印可による励起波長の変調動作、すなわち透過ピーク波長シフトに成功した。この結果はそれぞれ学術論文に採択されている。また、2年目の研究課題としていたMIM構造による波長選択制性向上に向けた検討としてナノインプリントによって構造の形成まで成功している。目標の数値達成のためには、構造の垂直性の改善が必要と考えられるが、ハイアスペクト比のMIMサブ波長格子を実現したプロセス技術を論文としてまとめ、計3編の論文を採択された。以上より、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
(1)伸縮フィルムを用いたMEMS可変カラーシートの製作 伸縮フィルムをアクティブ領域とし、MEMSアクチュエータと一体化することによって可変カラーフィルタを実現する。支持基板にテーパ角度をつけた下部電極を形成し、フィルム上に用意した上部電極との間に電位差を与え、静電引力によってフィルムを動作させる。上部電極がテーパ電極に近づくにしたがって、アクティブ領域が引き延ばされる方向に動作し、透過波長を変化させる。したがって電圧制御により透過色の変調を実現できる。原理検証用の試作には、45度テーパエッチングが可能なシリコン基板を用いてストレッチャブルフィルムの動作確認を行う。もしくは、3Dプリンタにより鋳型を作製し、サブミリスケールの素子を作製して動作確認を行う。この試作デバイスにおいては、解析モデルとの比較により次の設計指針を明らかにする。①低電圧駆動可能な下部電極のテーパ角度②ピクセルサイズと変位量の関係③上部電極サイズ(フィルファクタ)と駆動電圧の関係④フィルム動作時の配線の疲労・電気特性 伸縮材料としては、エラストマ材料であるスチレンーブタジエンを薄膜化したシートを用いることにより、目標とする50%の弾性変形が得られることが予備実験データとして得られている。このエラストマシート上にプラズモニック構造を形成し、ストレッチによる透過カラー変調を実現する。 (2)MIM構造の利用による波長選択性向上 前年度構造を形成したアルミ―シリコン酸化膜―アルミサブ波長格子の垂直性を向上し、高い波長選択性と透過率をもつカラーフィルタの作製を行う。前年度に利用したナノインプリント材料は溶剤溶解性持たなかったため、超音波洗浄によって物理的に剥離する作製法を行っていたが、溶剤溶解性を持つUV硬化性樹脂に変更し垂直性向上を図る。以上の課題遂行によって、半値幅50nm程度の波長選択性を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ひずみ印加時の透過特性を評価するためにミツトヨ・ビデオマイクロスコープをH27年度に発注を行ったが、納期が4月以降になった関係でH28年度に繰り越して支払いを行った。
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次年度使用額の使用計画 |
残額分は昨年度発注したミツトヨビデオマイクロスコープが5月に納品され、支払い済みである。
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