本研究では、微小流路内における検体の電気泳動時間計測を基盤とする高感度質量分析法を創成する。そのためにまず、マイクロポア/マイクロ流路/ナノ電極を融合させた新規センサ構造を開発し、1粒子検出のための微小電流測定系並びに電気泳動制御プログラムを立ち上げた。SiO2膜付きSiウエハ上にフォトリソグラフィー法、電子線描画法および高周波マグネトロンスパッタプロセスを用いて、約150nmの電極間距離を有する複数電極ギャップと幅約200nmのマイクロ流路で構成されたデバイスチップを作製した。当該デバイスを用いて、大きさや表面電荷密度が既知のナノ粒子を対象に、当該センサデバイスによる1粒子電気泳動時間計測を実施した。一様な深さの流路で構成されたセンサでは、導入流路部がセンサ部流路に比して顕著に長くなるため、電気泳動や水圧による粒子の泳動が困難であった。そこで、センサ部となるマイクロ流路より深い導入流路を有する2段構造流路設計に変更した。これを用いて、まず横電場の印加無しに流路を通るイオン電流計測を実施した結果、粒子通過を示唆する電流パルスシグナルを観測した。一方、横電場を加えた場合は、流路を通るイオン電流が埋め込み電極間の電圧に比例して減少し、粒子通過に伴う流路を通るイオン電流変化と同期した横方向の電流応答が観測された。これにより、埋め込み電極間電流計測を応用した粒子のダイナミクス解析及びその質量分析応用の可能性を実証することができた。
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