研究課題/領域番号 |
15K13326
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
高橋 和 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20512809)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 半導体微細加工 / シリコンフォトニクス / 光通信 |
研究実績の概要 |
SOI基板上に作製されるシリコンフォトニクス素子の動作波長は、トップシリコン層の厚みにより制限されるため、同一チップ上に作製された多数の光素子は、基本的に狭い波長範囲でしか動作しない。本研究では、このボトルネックを解消して、単一のSOI基板上に、異なる波長帯で動作する光素子を自在に集積化することを目指している。本年度は、①サブナノメートル精度でSOI基盤を薄膜化するプロセス技術の開発、②異なる厚みを有するSOI基板の作製を行った。この技術を用いて、異なる2つの厚み、220nmと185nmを有するSOI基板を作製することに成功した。 【リアルタイム膜厚変化計測法の開発】 上記目的とする素子の実現には、SOI基板のトップシリコン層の厚みをサブナノメートル精度でリアルタイム計測を行いながら薄膜化する必要がある。これは、最先端のCMP装置でも困難である。そこで、実験室レベルでも可能な化学エッチングと光干渉膜圧計測を利用した手法を開発した。研究の結果、表面の原子平坦性を保持しながら室温に近い温度でエッチング可能な溶液条件を見出した。エッチングスピードは1 nm/min以下となるように条件だしを行い、サブナノメートル精度が得られることを確認した。用いた薬品は、安価で安全なものである。表面のラフネス検査をAFMにより行い、ラフネス増大は許容範囲であることを確認した。 【位置選択機能の開発】 つづいて、基板の薄膜化に位置選択機能を付与するために、基板表面の一部を保護膜で覆い、異なる厚みを有するSOI基板の作製を行った。化学エッチングに耐えられる保護膜を見出し、異なる2つの厚み、220nmと185nmを有するSOI基板を作製することに成功した。 本研究のAFM評価においては、ナノテクプラットフォーム(京都大学)を利用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、新たなシリコン薄膜化プロセスをゼロから開発するという工業的に見ても大変挑戦的なものである。リアルタイム膜厚変化計測法の開発と位置選択機能の付与に関して、狙った通りの結果が得られ、正直驚いている。実際には、SOI基板の全面を綺麗にエッチングすること、高い再現性を確保することは難しいと考えていた。また当初は、室温よりも高い温度でしか化学エッチング出来ないと考えていたが、溶液条件を工夫することで、室温で行うことに成功した。再現性も非常に高く、どこの研究室でも実行可能な簡便な手法であり、今後、大きく普及することが期待される。 すでに、次年度の研究計画の1部を開始しており、異なる厚みを持つSOI基板に、1.55umと1.30um用のフォトニック結晶をEB描画できることを確認している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、27年度に開発した基板に、1.30umと1.55umで動作する2つの高Q値ナノ共振器を作製して、①両者でQ値100万以上を達成すること、②異なる波長帯で動作するナノ共振器シリコンラマンレーザ素子を集積化することを目指す。②は、当初計画には無かったものであるが、予想以上に研究が進展したため、期間内のターゲットに追加する。作製プロセスのうち、EBとICPに関しては京都大学野田研究室の装置を使用する予定である。 【1.30umと1.55umで動作する高Q値ナノ共振器の1チップ集積】 本項目の研究の流れは、①共振器構造の設計→②サンプル作製→③光学評価となる。申請者は、すでにQ値100万以上のナノ共振器を、1.27um~1.65umで実現している。そのため、①共振器構造の設計、③光学評価において大きな障害はない。克服すべき課題は、構造パラメーターが大きく異なる2つのナノ共振器を、空気孔の半径と位置揺らぎを1 nm程度に抑えて作製できるかである。全てが初めて挑戦する課題であり、学術価値の高い知見を多数もたらすと期待される。 共振器構造:スケール則に従って、1.30umのナノ共振器の構造パラメータは、1.55umのナノ共振器の84%とする必要がある。厚み185nmと220nmを持つSOI基板を準備して、格子定数はそれぞれ343nmと410nm、孔半径は92nmと110nmとする。 作製プロセス:フォトニック結晶パターンは、EB描画とICPエッチングによりトップシリコン層に形成されるため、空気孔揺らぎを抑えるためには、この2つのプロセスの精度が重要となる。既に、EB描画には問題ないことを確認している。残りの克服すべき課題は、ICPエッチングの精度である。Si層が薄い1.3um用の空気孔のオーバーエッチングが重大な問題になる。しかし、両者の空気孔を綺麗に形成できるICP条件を見出すことは可能と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、最終的には、保護膜の微細パターン形成を目指している。保護膜にフォトレジストやEBレジストを用いることを試みたが、これは樹脂がエッチング溶液に対して耐性がなかったため困難と判明した。そこで、インクジェット方式などの採用を新たに検討する時間が必要となり、次年度に研究費を持ち越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
微細パターン形成が可能な装置を購入するつもりである。今のところ、インクジェットが有望であるが、研究費以内で購入不可能と判明した時には、ナノテクプラットフォームなどを利用する。その場合は、プロセスを高度化させるための装置、作製した光素子の光学評価用のオプティクスの購入に充てる。
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