本研究は、単一のSOI基板上に、異なる波長帯で動作する高機能シリコンフォトニクス素子を集積化することを目的とした。初年度には、サブナノメートル精度でSOI基板のトップシリコン層を薄膜化する技術を開発した。さらに、異なる厚みを有するSOI基板の作製に成功した。本年度は、この基板上に、1310nm帯と1550nm帯で動作する2つの高Q値ナノ共振器を作製して、①両者でQ値100万以上を達成すること、②両者でシリコンラマンレーザー発振を実現することを目指した。②は、当初計画には無かったものである。 【高Q値ナノ共振器の集積化】 厚み185nmと220nmを持つSOI基板を準備して、薄い基板側に1310 nm、厚い基板側に1550 nmのナノ共振器を形成した。異なる厚みを持つ基板に対して、構造揺らぎを抑えて高Q値ナノ共振器を作製できるかは不明であった。しかし、卓越した技術を用いて、動作波長が1564.64nm、1323.28nmを有し、Q値がそれぞれ208万、214万というナノ共振器を1チップ上に作製することに成功した。Q値200万は、単一チップでも達成困難であり、本結果は、驚異的な加工技術を示すものである。 【シリコンラマンレーザーの集積化】 つづいて、1310nm/1550nm帯で動作するシリコンラマンレーザーの集積化に挑戦した。シリコンラマンレーザーは、もっとも作製難易度が高いシリコンフォトニクス素子であるが、どちらの波長帯においても、閾値1uW以下で、レーザー発振を確認した。これより、開発した薄膜化手法のポテンシャルが高いことが確認できたので、今後は産業移転を働き掛けていく。 本研究のAFM評価、白色干渉顕微鏡評価においては、ナノテクプラットフォーム(京都大学)を利用した。また、高Q値ナノ共振器、ラマンレーザー作製に関して、京都大学野田進研究室の協力を得た。
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