本研究の目標は、メタ表面の共鳴の顕著なギャップ敏感性を利用して、1000℃という高温の熱放射を10MHzという高速で変調することに挑むことである。具体的には、波長4μmの中赤外光を共鳴放射するタングステン製メタ表面のギャップ部を圧電素子で20nmだけ高速強制駆動する。周囲は常温に維持しつつメタ表面だけを高温に加熱するために、熱絶縁性と剛性を両立したSiN立体メンブレンという特異な構造を実現し、その先端面に、メタ表面を構成する金属パッチ配列と電熱ヒータを作り込む。 平成27年度には、当初の計画に沿って、メタ表面を構成する金属ストライプ面と金属連続膜面のギャップを、圧電素子に高電圧を印加して押し当てた状態で接着・硬化させるメタ表面ユニットを作製し、波長3.3μmにて、610%の吸収率(放射率に等しい)の変調が最大周波数1.7kHzで可能なことまで確認していた。しかし、メタ表面ユニット全体の剛性不足のために、金属ストライプ面と金属連続膜面の密着状態が安定に維持できず、設計通りの共鳴が実現したわけではなかった。 平成28年度は、金属連続膜面側の立体的な構造を見直し、密着面積を極小化してその領域だけは確実な密着・離脱が実現するように改良し、また、メタ表面ユニット全体を高剛性化した。研究期間内に熱放射の高速変調までのすべての評価は終えることはできなかったが、それを実現するための機構はほぼ確立した。メタ表面による熱放射に関する研究はこの研究期間内にもますます盛んになり、本研究の重要性はより明瞭になったが、今なお同様の結果は報告されていない。今後も世界に先駆けた実証を目指す。
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