研究課題/領域番号 |
15K13329
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
丸本 一弘 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (50293668)
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研究分担者 |
尾込 裕平 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 助教 (10718703)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ペロブスカイト太陽電池 / 電子スピン共鳴 / ミクロ特性評価 / 素子動作機構 / 素子劣化機構 / 電荷蓄積 / ドーピング効果 / 電荷状態 |
研究実績の概要 |
本研究では、電子スピン共鳴(ESR)を高効率ペロブスカイト太陽電池に適用して分子・原子レベルでのミクロ特性評価を行い、ペロブスカイト太陽電池研究で現在大きな問題の一つとなっている素子の本質的な劣化機構をミクロな観点から解明する。そして、この劣化機構に基づいて素子構造の改良を行い、更なる素子特性の向上を実証するとともに、耐久性の大幅な向上を目指し、実用化に貢献する。 本年度は、素子中の電荷蓄積状態の解明のため、素子構成材料である正孔輸送材料spiro-OMeTAD単膜や鉛ペロブスカイト/spiro-OMeTAD積層膜等の試料や鉛ペロブスカイト太陽電池素子を作製し、光誘起ESR分光研究を進めた。 素子構成材料研究では、Li-TFSTドーピングによりspiro-OMeTAD中の正孔形成が著しく増強し、そのスピン数が2桁以上増加することが分かり、高いドーピング効果が立証された。また、疑似太陽光照射下でペロブスカイト/spiro-OMeTAD積層膜に対してLi-TFSIドーピングによるspiro-OMeTAD中の正孔蓄積の増加を観測し、ドーピングによる正孔移動効率の向上が微視的な観点から示され、素子の高効率化と良い対応を示した。以上の結果については学術論文Appl. Phys. Lett.に掲載され、APL Editor's Pickに選ばれると共に、米国物理協会出版(AIP Publishing)や筑波大学等からプレスリリースされた。 素子研究では、疑似太陽光照射下での素子動作時に、同一素子を用いてESR特性と素子特性を同時に評価し、素子中のspiro-OMeTADへの正孔蓄積を同定した。そのスピン数を評価したところ、短絡電流の増加とスピン数の増加、開放電圧の減少とスピン数の増加にそれぞれ明瞭な相関を観測した。これらの結果については現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、素子中の電荷蓄積状態の解明のため、素子構造に用いられている積層膜試料や鉛ペロブスカイト太陽電池を作製し、光誘起ESR分光法を用いて素子中における電荷蓄積状態を解明することを計画し、達成できた。以下に、達成出来た点の要点を簡潔に述べる。 ESR測定が可能な正孔輸送材料spiro-OMeTAD薄膜および鉛ペロブスカイトCH3NH3PbI3/spiro-OMeTAD積層膜等を作製した。疑似太陽光照射下で材料中の電荷蓄積を精密に評価し、その信号の起源がspiro-OMeTADに由来することを同定した。そして、Li-TFSI塩ドーピング効果を明らかにし、spiro-OMeTAD薄膜における著しく増強された正孔形成や、CH3NH3PbI3/Spiro-OMeTAD積層膜における正孔移動効率の向上を見出した。この結果はLi-TFSI塩ドーピングによる素子の高効率化の微視的な機構を説明する成果である。これらの結果はAppl. Phys. Lett.に掲載され、APL Editor's Pickに選ばれると共に、米国物理協会出版(AIP Publishing)や筑波大学等からプレスリリースされた。 また、鉛ペロブスカイト太陽電池研究では、積層膜試料と同様にspiro-OMeTAD中の正孔蓄積に由来する光誘起ESR信号を観測した。疑似太陽光下でのESR特性と素子特性の同時測定により、スピン数の増加と短絡電流の増加の相関や、スピン数の増加と開放電圧の減少の相関を観測した。TiO2やCH3NH3PbI3中のスピンは低温でのみ観測されることが報告されているので、低温でのESR測定も行ったが、TiO2やCH3NH3PbI3中の電荷蓄積は明瞭には観測されなかった。これらの結果を踏まえて、素子で観測された素子特性とESR特性の相関の起源や素子の劣化機構について今後解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度の研究を発展させると共に、低温におけるESR測定も活用して、以下のESR研究を進める。 疑似太陽光照射下での素子動作時に、ESR特性と素子特性を、同一素子を用いて同時に評価する。電子バッファー層や正孔輸送層等を変えた場合に電荷蓄積がどのように変化するのか、各層の作製方法や素子構造を変えた素子について系統的な研究を行う。積層膜試料も用いたESR信号の解析により電荷蓄積が生じている分子種・原子種とその箇所を同定し、電荷蓄積が引き起す素子劣化機構を微視的な観点から解明する。 また、これらの素子劣化機構の解明により高効率長寿命な素子の作製指針を得る。それに基づいて素子開発および素子作製を行い、素子構造の改良による素子性能の向上と素子耐久性の向上を目指す。薄膜内や積層膜界面におけるスピン形成・電荷蓄積を変化させるため、電子バッファー層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の製膜方法の最適化、鉛サイトを錫に置換することや有機カチオンサイトを混晶化あるいは無機材料を用いる等のペロブスカイト結晶構造の最適化、電子バッファー材料や正孔輸送層材料の選択の最適化などを行い、素子構造を改良し、長寿命化を目指す。 以上の異なる素子作製法や素子構造を用いた高効率ペロブスカイト太陽電池の系統的な研究により、素子中のスピン形成や電荷蓄積の有無を調べ、それらの箇所を分子・原子レベルで明らかにする。また、それらのスピン形成や電荷蓄積と素子特性との相関を明らかにし、高効率ペロブスカイト太陽電池の本質的な素子劣化機構を解明する。そして、高特性高安定な素子の作製指針をミクロな観点から得て素子改良を行い、素子効率と耐久性の向上を目指す。 以上の研究について、研究分担者・連携研究者の九州工業大学早瀬グループと共同研究を行い、良質な太陽電池作製を進める。
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