研究課題/領域番号 |
15K13331
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松井 裕章 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (80397752)
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研究分担者 |
神吉 輝夫 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (40448014)
J・J Delaunay 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80376516)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 強相関酸化物 / VO2 / 表面プラズモン / 中赤外 / モット相転移 / ナノドット構造体 |
研究実績の概要 |
本課題は、60oC近傍で金属・絶縁体転移を示し、赤外領域において表面プラズモン励起を発現する。故に、VO2は温度履歴を有するプラズモニックマテリアルとして機能し、外気温の変化を自律的に感知し、近赤外光の透過率を自動制御できる窓応用の開発に繋がる。故に、従来の金属や酸化物半導体を軸とした熱線遮断技術に温度制御という因子を付与することが出来る。本研究では、酸化物材料の機能性とナノ構造体に立脚したナノ光技術の異分野融合に向けて、VO2からの表面プラズモン励起のメカニズムを、実験的・理論的に検証することを本研究の目的とした。 VO2の2次ナノドット構造は、トップダウン技術を用いて作製された。最初に、パルスレーザー堆積法を用い、Al2O3 (0001)基板上にVO2薄膜をエピタキシャル成長させた。次に、ナノインプリントリソグラフィー技術と反応性イオンエッチングを併用し、均一なドットアレイ構造を形成した。加工サイズは、200 - 800 nm程度において制御した。VO2ナノ構造体は、モット相転移に伴い金属相が67oC以上で発現し、0.39 eV近傍に透過ディップが観測され、これはVO2ナノドットからの表面プラズモン励起を意味する。一方、絶縁相を示す室温下では透過ディップは出現しない。また、ナノドット構造体の周期やサイズ依存性、及び3次元電磁界計算(RCWA)における理論計算に基づいて、VO2ナノドット構造に由来する表面プラズモン励起の起源を解明した。特に、VO2の表面プラズモン励起のダンピングは、電子・電子相互作用が重要な役割を果たしており、従来の金属系材料と大きく相違することを見出した。上記の成果は、来年度以降の実施する表面プラズモン励起の外場制御に向けた重要な予備的知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、VO2ナノ構造体から発現される表面プラズモン励起の外場制御を実施すること目標がある。平成27年度においては、パルスレーザー堆積(PLD)法を用いたなVO2薄膜の作製に成功し、X線回折やラマン分光解析から良質な薄膜形成が達成された。更に、ナノ構造体の作製に向けて、電子線ビームリソグラフィーによる石英モールドの形成、及びナノインプリントリソグラフィーと反応性イオンエッチング技術に基づいたナノ構造体の作製も行った。VO2ナノ構造体から表面プラズモン励起を観測し、モット相転移に由来する絶縁体・金属相転移に伴う表面プラズモン励起のスイッチングにも成功した。更に、3次元電磁界計算(RCWA)に基づく理論的考察から、VO2ナノ構造体周辺の電磁界分布を詳細に解析し、VO2表面プラズモン励起のメカニズムを特定した。その成果は、2015年度に分担者と伴に国際論文誌への投稿[H. Matsui, Advanced Optical Materials 3, 1759 (2015)]や、国際会議にて口頭発表を実施した。上記の成果は、平成28年度に実施するVO2表面プラズモン励起の電場制御に向けた予備的知見として十分である判断される。故に、本研究課題は、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度における研究実施内容を以下に示す。 VO2の1次ナノ構造体を作製し、その光学的性質を理解する。1次元ナノ構造体の表面プラズモン励起は、入射波に対する偏光や角度依存性が存在する。故に、VO2ナノ構造体を角度依存性と偏光依存性を温度変化下で近赤外から中赤外域で測定し、表面プラズモン励起の最適な励起条件を明らかにする。更に、ナノ構造体と金属相ドメインの空間分布を明らかにしていく。VO2は絶縁体から金属状態に相転移する際に、金属相(電子相ドメイン)の出現が関与する。これは、モット絶縁体酸化物に特有な現象である。故に、顕微分光とラマン分光を併用して、表面プラズモン励起と電子相ドメインの生成を観測する。 VO2の1次元ナノ構造体を用いた表面プラズモン励起の電場制御を実施する。特に、本項目では、電場制御に伴う抵抗スイッチング効果を表面プラズモン制御に応用する。電極形成は、ナノインプリント技術を用いて行う。ナノ細線構造における電気的性質は研究分担者に協力を頂く。分光計測は、電極間内の局所制限視野下で行う必要があるため、5μm程度の空間視野を有する顕微赤外分光を用いる。 上記のナノ細線構造を利用して赤外帯域における光状態の電場制御を実証する。金属相への転移の伴い表面プラズモン励起が発現し、ある波長帯域で選択的に光透過が吸収遮断される。このフィルター現象の金属・絶縁体転移を利用して、赤外からTHz帯域にかけてその現象を実証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度(27年度)において、VO2ナノ構造に関する3次元電磁界計算を実施し、及び実験的結果に対する理論的考察をを主に推進した。更に、初年度において、1次元ナノ構造体の試作も行い、250 nm級のナノ構造体の作製に成功した。特に、代表者と分担者の共同研究に関する成果の国際会議での発表や、査読付国際論文誌[Adanced optical Materials 3, 1759(2015)]への論文出版を行った。故に、初年度は共同研究成果を発表及び論文として公表することに注力したため、旅費執行等に主な予算執行がなされ、予定の使用額との差異が生じた理由となります。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度(28年度)は、前年度のVO2ナノドット構造体を1次元グレーティング構造体へと拡張する。来年度前期において、1次元ナノ構造体の作製及び表面プラズモン共鳴励起の評価を実施する。ナノ構造体における光学反射測定の温度依存性を評価するために、ピエゾ素子の改造費として45万円を計上する。更に、ナノインプリントリソグラフィー用の石英モールドを追加で発注する費用として、90万円を計上する。また、電磁界シミュレータのライセンス費として30万円、フォトリソグラフィーによる電極形成パターンとして20万円程度を支出する。その他、旅費、消耗品及び論文出版費用等として計上致します。
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