研究課題
本年度は、高圧合成によりポストグラフェン積層新物質を合成し、そのディラック電子状態と関連した基礎物性を評価することを目的に研究を進めた。そこでまずは、予備実験により高圧合成に成功していたフォスフォレン(燐のハニカムシート)の積層物質である黒燐を対象に、元素置換によるキャリアドープにより、電気伝導や熱電能の制御を試みた。この結果、高圧下溶融法により、シリコンとゲルマニウムのドープに成功した。これらはp型のドーパントとして機能することわかり、最大で10の21乗 cm-3程度の正孔キャリアをドープできることが分かった。ドープ量を系統的に変化させ、最適ドープ量と見出すことにより、熱電電力因子が母物質の約3倍にまで上昇させることに成功した。さらに幅広い物質探索を目指し、ハニカムシートだけでなく正方形シートの積層構造を有する物質の新規開拓も進めた。本系は近年、理論と実験研究により、新しい多層ディラック電子系と注目を集めていた。申請者は、特に本物質が磁性体であることに注目し、磁気秩序とディラック電子が強相関状態になり得る物質の創製を目指した。この結果、ビスマスの正方形シートとユーロピウムとマンガンからなる絶縁体層が交互に積層した層状磁性体の合成に成功した。特に興味深い点は、正方形シート面内において15,000cm2/Vsもの高移動度が観測された上、磁場によりブロック層の磁気秩序を変化させると、1,000%以上の巨大な層間磁気抵抗効果を示すことである。さらにバルク量子ホール効果を示唆するホール抵抗のプラトーを観測できており、ディラック電子の量子伝導を固体中のスピンで制御することに初めて成功した。本物質と関連物質に関する研究成果は、2編の論文として発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
主要な研究対象であった黒燐の高圧合成および元素置換に成功し、それらの物性(電気伝導、熱電性能など)を系統的に制御することに成功した。これに加え、ハニカムシート以外のディラック電子伝導層が積層した物質を新規開拓し、磁性とディラック電子が共存する物質を発見。さらに、その磁気秩序と強く結合した量子伝導現象を明らかにすることができた点は、計画以上の進展と見なせる。
当初の計画通り、今後は得られたハニカム積層物質の電気化学的な構造・物性制御を推進する予定である。さらに、平成27年度の研究で見出した正方形シート積層物質は、磁性や超伝導とディラック電子の強相関状態を実現する格好の舞台となり得ることがわかったので、高圧や高真空を利用することで周辺物質を開拓し、そのバラエティーを充実化することを目指す。
毒劇物用の排気装置付の合成装置を購入予定であったが、本年度はビスマスなど毒性の低い元素のみを含む物質の合成に成功し、これに注力したため排気装置の購入を見送ったから。
ビスマス化合物の測定結果から、同じプニクトゲンで毒性を有するアンチモンやヒ素で部分置換した系も、興味深い物性や構造を示す可能性が明らかになってきたため、次年度に排気装置付の合成装置を購入する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Science Advances
巻: 2 ページ: e1501117
10.1126/sciadv.1501117
Physical Review B (Rapid Communication)
巻: 93 ページ: 100302(R)
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