研究課題/領域番号 |
15K13334
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
鵜沼 毅也 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (20456693)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 共役ポリマー / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き,共役ポリマー薄膜に高い面内電場を印加した状況下で光パルス励起によって得られる,電子系の超高速応答を反映したテラヘルツ放射波形を系統的に調べた。テラヘルツ放射波形データに関する詳細な形状解析および放射振幅の励起強度依存性に基づいて,主鎖の異なる複数の共役ポリマーに共通するテラヘルツ放射の主要メカニズムを提示することができた。
ポリチオフェン,ポリフェニレンビニレン,およびポリフルオレン誘導体の薄膜からのテラヘルツ放射波形は,同じオーダーの振幅でほぼ同じ形状をしており,その背後には主鎖の異なる共役ポリマーに共通の物理があることを示唆していた。本年度は,詳細な形状解析を進めた結果,テラヘルツ放射波形はデルタ関数状の瞬時分極の2階時間微分(共役ポリマーを流れる変位電流の寄与に基づく)によって良く再現されることを見出した。さらに,テラヘルツ放射波形の振幅は励起強度に対して1乗から2乗までの依存性を示し,依存性の強さは共役ポリマーの種類に応じて異なることが分かった。3つの試料の中でバンドギャップが最も狭く,かつ,結晶性が最も良いと考えられるポリチオフェン薄膜においては,単純な1乗の励起強度依存性が現れた。上記の事実から,テラヘルツ放射のメカニズムを考察した。放射源となる瞬時分極は励起子形成または光整流のいずれかによって作られており,その際にバンドギャップの広さやディスオーダーの度合いに応じて局在状態を経由した2段階励起が関与する,という新たな知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主鎖の異なる共役ポリマー薄膜に共通するテラヘルツ放射メカニズムを初めて系統的に明らかにし,その成果を応用物理系の専門速報誌上で論文報告することができた。薄膜試料の品質をさらに改良するための知見も得られており,次年度の計画へスムーズにつながる状況にある。以上のことから,目的の達成に向けて研究が順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はこれまでおおむね順調に進展してきているので,今後も引き続き有機半導体の成膜を含めたデバイス作製の段階における工夫を重ね,一方でテラヘルツ分光測定・解析手法の改良を行う。本年度までに得られた知見を基にして,共役ポリマー薄膜のテラヘルツ放射効率の向上を図りつつ,より短い時間領域に着目しながらバリスティック伝導現象の探究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
テラヘルツ分光測定系の一部改良を予定しており,当初は本年度中に光学部品を追加購入する見込みであった。光学部品の仕様を検討する過程で,本年度終わりから次年度初めにかけて行っている実験の結果を見た後で判断する必要性が出てきたため,助成金の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分の助成金と合わせて,上記用途に適した仕様の光学部品(消耗品)の購入に充てる。
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