共役ポリマー薄膜のテラヘルツ放射波形から電子系の超高速応答に関する情報をより正確に引き出すために,因果律に基づくテラヘルツ放射波形の時間原点決定法の拡張を行って実際の測定データに適用した。
テラヘルツ放射分光における因果律とは,対象の試料へ励起光パルスを照射する前にはテラヘルツ放射が生じないという物理的概念である。因果律に基づいて,テラヘルツ放射電場の複素フーリエスペクトルにおける実部と虚部の間に成り立つクラマース・クローニッヒ関係式を導くことにより,テラヘルツ放射波形の時間原点を決定することができる。研究代表者らが2011年にこの種の時間原点決定法を初めて開発した際には,デルタ関数状の瞬時分極の寄与を考慮せずに定式化を行っていた。共役ポリマー薄膜では瞬時分極の発生がテラヘルツ放射波形に大きく寄与しているという昨年度までの知見を踏まえ,実際のテラヘルツ放射波形に含まれうる起源の異なる成分を詳しく解析するために,前述の時間原点決定法を拡張できるかどうかを検討した。その結果,定式化の過程を工夫することによって,瞬時分極の寄与を含んだテラヘルツ放射電場に対する新たなクラマース・クローニッヒ関係式を導出することができた。さらに,テラヘルツ放射波形のシミュレーションデータおよび測定データについてこの関係式を数値計算し,時間原点を精確に決定できることを実証した。上記の成果を学会で発表した後,論文にまとめて専門誌へ投稿する準備を進めている。
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