研究実績の概要 |
電気回路では、抵抗、インダクタ、キャパシタに続く第4の素子として「メモリスタ」が注目されている。これは通過した電荷量と共に抵抗が変化する。本研究では、「通過した光量に応じて光透過率が変化する素子:光メモリスタ」の可能性を探る。 当初計画では、固体電解質中のナノ粒子の析出・ドリフトを提案したが、問題点が多くあるため、別のフォトクロミック材料「ジアリールエテン」を検討した。これは紫外線照射により緑色光の透過率が減少し、緑色光照射により、透過率が回復するという、光メモリスタの性質を備えている(立教大学の入江教授が1988年に発見)。我々は、この材料を用いて光メモリスタを実現する方法を研究した。 シリコン窒化膜をコアとし、ジアリールエテンを混合した塗布シリコン酸化膜をクラッドとする光導波路を形成し、その特性を調べた。その結果、紫外線(365nm)照射によって緑色光(513nm)の透過率が減少し、紫外線照射を中止すると、照射する緑色光の総エネルギーに応じて透過率が式(1-exp(-E/k))(Eは緑色光の総エネルギー、kは定数)に従って回復することを見出した。これを用いたニューラルネットワークモデルを提案し、国際会議(SSDM2018)および学術誌(Jpn. J. Appl. Phys. 57, 04FH02, 2018)に発表した。 しかし、緑色光による回復時定数は数分と長い。そこで、ジアリールエテンを混合した紫外線硬化樹脂をコアとする導波路を形成した結果、数十秒まで時定数を短くすることができた。しかし、目標とするミリ秒には至らなかった。そこで、紫外および緑色光照射による透過率変化の物理モデルを立案し、実験結果と比較した。その結果、両者は定性的に一致した。さらに、緑色光照射による回復時定数をミリ秒にするためには、ジアリールエテンの濃度を現状の1/6にすれば良いという理論予測ができた。
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