本研究では、広島大学放射光科学研究センターの軟X線放射光ビームラインにおいて、実用材料の低真空または大気圧下における軟X線吸収(XAS)および磁気円二色性(XMCD)実験が可能な測定環境構築を目指す。この環境構築のために、真空封止型軟X線通過機構、フォトンディテクタユニット、大気圧試料セルの要素技術を確立することが重要になる。最終的に、これら要素技術をインテグレーションしてシステム化を試み、実用材料の実用環境場での計測に進むことになる。また、測定環境構築と並行して、実用材料としての応用が期待される磁気積層構造を持つ試料やナノ粒子試料の作成や物性評価を進めて、最終的に、新たに開発された測定環境で、これらの試料について環境場を可変したXAS/XMCD測定を実施する計画である。本年度の具体的な研究実績は、以下の通りである。
(1) 低真空または大気圧下における軟X線測定環境を実現するために、低真空チェンバや排気系、放射光ビームラインへの接続機構の設計を行い、構成部材の調達を実施した。また、低真空または大気圧下における軟X線測定の手法として有望な反射率計測法を導入するために、ビームラインが供給する具体的な軟X線ビームを前提として、リフレクトメータの詳細な光学系検討を行った。この検討をもとに、具体的なリフレクトメータの全体設計に進み、各構成要素の具体的仕様決定と部品設計を終えて、それらの製作に着手した。
(2)六方晶硼化窒素と強磁性層が接合するスピントロニクス界面ナノ構造について、試料作製を試み、X線吸収スペクトルとその磁気円二色性スペクトルの測定を行った。
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