研究実績の概要 |
ノンドープGaAs(d nm)/n型GaAs(i-GaAs/n-GaAs)エピタキシャル構造(d=100, 200, 500, 800nm)を試料として、フェムト秒パルスレーザー(パルス幅50fs、中心波長800nm)励起により発生するテラヘルツ(THz)電磁波の時間領域信号を光伝導ダイポールアンテナを用いて時間分解THz分光法(光ゲート法)により検出した。研究実績概要は、以下の通りである。 1. THz電磁波発生の要因であるi-GaAs層の表面電場(表面フェルミ準位ピニングによる)を、光変調反射分光法によって観測されたFranz-Keldysh振動を解析して評価し、d=100nmで50kV/cm、d=200nmで28kV/cm、d=500nmで11kV/cm、d=800nmで8kV/cmという電場強度が求まった。この表面電場によって、i-GaAs層で光生成された電子がn-GaAs層に向かってドリフト運動する。 2. THz電磁波時間領域信号の励起強度依存性の系統的な測定を行い、その一連のフーリエ変換スペクトルから、d=100, 200, 500nmの試料において、コヒーレント縦光学(LO)フォノンとコヒーレントLOフォノン-プラズモン結合(LOPC)モードの上下分枝[LOPC(+)とLOPC(-)]のスペクトルを明確に観測した。LOPCモードの誘電関数に基づいて解析を行い、振動数が光生成電子濃度によって決定されること、及び、プラズモン性が大きいLOPC(-)モードの振動数が2.8THzから5.0THzまで可変できることを明らかにした。以上のことは、i-GaAs層をドリフト運動している光生成電子がプラズモンとして作用していることを明示している。 3. 時間分割フーリエ変換を用いてコヒーレントLOフォノンとLOPC(-)モードの寿命解析を行い、典型的な寿命がそれぞれ0.75psと0.12psであるとの結果が得られた。LOPC(-)モードの寿命が極めて短いことの理由としては、i-GaAs層における電子のドリフト走行時間と関連していると考えられる。
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