混晶窒化物半導体であるAlInNは、AlNとInNの間で非常に大きくバンドギャップを変化させられることから、可視光を含み、深紫外線領域から赤外線領域までの広い範囲で発光波長を制御することができる。また、GaNと格子整合する組成が存在し、その組成においてGaNとの間で大きな屈折率差を得ることができるなど、特徴的な物性を持つ魅力のある発光材料である。しかしながら、高品質な試料を得るための結晶成長が難しいことから、InGaNやAlGaNといった他の混晶系と比べて報告例が少ない。特に、発光効率を低下させる量子閉じ込めシュタルク効果を回避することができる、非極性面(m面)AlInNの光学特性に関する報告はほとんどなかった。そこで本研究では、m面GaN基板上にAlInN薄膜をエピタキシャル成長させ、その発光特性の評価を行い、発光素子としてのポテンシャルを探った。 AlInN薄膜の発光および反射スペクトルを測定し、発光ピークエネルギーと吸収端エネルギーを評価したところ、極めて大きなストークスシフトが観測された。ここから、AlInNの発光が、バンド内に形成された局在準位に捕獲された励起キャリアによって生じている可能性を見出した。さらに、発光の温度特性から温度消光比を見積もったところ、どの試料においても67~44%程度と、量子構造のない薄膜としては非常に大きな値を観測した。これは、励起されたキャリアが局在準位に捕獲されることにより非輻射再結合中心の影響を受けにくくなったことを反映したものであると考えられる。このように、AlInNが発光層として高い潜在能力を持っていることを明らかにした。 このような、熱力学的に混ざりにくいAlInN混晶を非極性m面にMOVPE成長させた薄膜を蛍光表示管(VFD)に搭載することにより、波長210 nmに迫る深紫外線から緑色までの小型偏光光源を実現した。
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