研究課題/領域番号 |
15K13346
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斉木 幸一朗 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (70143394)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / 熱放射 / 成長機構 |
研究実績の概要 |
熱放射顕微鏡(黒体輻射顕微鏡)装置の高機能化を図るため,以下の装置的改良をおこなった.①従来のレンズに併設されている照明系に加えて,独立に操作できる照明系を増設し,リレー駆動によって照明光の一定の間隔での試料照射を可能にした.これによりほぼ同時刻の熱放射像と反射像を取得できるようになり,グラフェンの形状と銅基板表面の形態の相関解明が促進された.②ガス導入系のマスフローメータをマスフローコントローラに交換し,原料ガスの供給制御が精密化された.③原料ガス導入ラインの清浄化のための排気系を増設するとともにフィルターを設置し,原料ガス中の不純物の軽減化を図った.④銅基板を成長位置でスパッタクリーニングできるように反応室を改造した. 熱放射顕微鏡による銅単結晶基板上のグラフェン成長過程を観測した.繰り返しのグラフェン成長と加熱によるグラフェン除去で核密度の低減を観測した.この低減は(100)面と(111)面では差違がないことを見出した.5回目以降の繰り返しでは核密度の減少は下げ止まった.反射像による銅基板表面の形態観察から,グラフェン消去時においてグラフェンがなくなった領域は銅原子の蒸発が加速され,表面の凹凸が拡大することが明らかになった.この基板表面の荒れが核形成サイトを供給し,上記の核密度の下げ止まりをもたらしたと考える. 熱放射顕微鏡による銅多結晶基板上のグラフェン成長過程を観測した.特に原料であるメタンガス供給開始後の核密度の時間変化を詳細に観察し,誘導期間 (induction period)の評価をおこなった.従来CVD成長過程でこの誘導期間を定量的に解析した例はなく,今回のデータ集積はグラフェンCVD過程の解析に重要な知見を与えるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱放射像に加えて,反射光像を取るために新たな照明系を導入した.またリレーの設置により,照明光を一定の間隔で照射することによりほぼ同時刻の熱放射像と反射像を取得できるようになり,グラフェンの形状と銅基板表面の形態の相関解明が促進された.ガス導入系のマスフローメータをマスフローコントローラに交換し,原料ガスの供給制御が精密化された.原料ガス導入ラインの清浄化のための排気系を増設するとともにフィルターを設置し,原料ガス中の不純物の軽減化を図った.銅基板を成長位置でスパッタクリーニングできるように反応室を改造し,イオン銃の設置を可能な配置とした.これらの装置系の改良で,グラフェン成長核密度の低減化を図っている.
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今後の研究の推進方策 |
装置の改良はほぼ27年度で終了したので,成長条件を多岐に変化させてグラフェン成長をおこない,熱放射顕微鏡像の観測から核形成密度およびその時間変化,誘導期間,成長速度を評価し,それを元に成長機構の解明をおこなう. 上記のデータを元に成長条件を最適化し,ミリメートルスケールの単結晶グラフェン成長条件を確立する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では除振台の設置を見込んでいたが,除振ゴムの設置により現在の空間分解能内での除振効果が得られることが実験的に判明した.その結果,除振台の導入を取りやめた.
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次年度使用額の使用計画 |
研究途中において,イオンビームスパッタによる銅基板処理が核密度の減少に多大な効果があることを見出した.熱放射顕微鏡の設置してある反応装置にイオン銃を設置して,リアルタイムでグラフェン成長形態の観察をおこなうために次年度使用額を充当する.
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