研究課題/領域番号 |
15K13347
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
佐々木 聡 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 教授 (10162364)
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研究分担者 |
奥部 真樹 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 助教 (10397060)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | X線共鳴磁気散乱 / 円偏光 / 不対電子密度 / X線弾性散乱 / 放射光 / 4軸回折計 / 磁気構造解析 / 希土類鉄ガーネット |
研究実績の概要 |
当該研究の最初の年度として、原子内での共鳴効果を利用する放射光X線共鳴磁気散乱(RXMS)と非共鳴X線の弾性磁気散乱の両者に着目して、両者の磁気情報を同時に取り出す磁気構造解析法の確立を目指した。そのため、結晶内原子に属する電子がもつ磁気モーメント(磁性電子密度)を円偏光X線との係わりで考察した。実験では円偏光X線を結晶に入射し、X線の基底状態を入射側も散乱側も円偏光にとって完備性を持たせ、出射側では偏光状態で積分した散乱強度を用いる測定システムを構築した。 特徴的なフェリ磁性酸化物であるガドリニウム鉄ガーネット、Gd3Fe5O12 (GdIG) を用い、(1) 共鳴するFeイオンに注目したRXMSエネルギー依存測定、および (2) 非共鳴のGdイオンと共鳴するFeイオンが共存する磁性電子密度分布解析を行い、有意義な研究結果を得た。また、同様のフェリ磁性酸化物であるMnフェライトについて、基礎データを収集するとともに、RXMS測定を行った。特に、RXMS実験では、X線磁気円二色性よりも高エネルギー分解能で電子遷移スペクトルが求まったことを特筆する。 X線実験には、エネルギー選択的に円偏光が得られる高エネルギー加速器研究機構・放射光実験施設Photon FactoryのビームラインBL-6Cに設置された4軸型X線回折装置AFC-5を利用した。(001)カット・ダイヤモンド結晶移相子を用い、Laue配置111反射で円偏光X線を生成した。円偏光反転で非対称度のエネルギー依存を求めるとともに、磁性電子密度分布解析のために3次元反射強度を可能な限り広い逆格子空間で測定した。測定強度差から円偏光反転での結晶構造因子の差を求め、結晶構造解析により、不対電子の電子密度が求めた。以上の結果から測定法についての基本的な問題をクリアし、次のステップであるポンプ・プローブ実験に移れる状態に達したと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
円偏光X線を利用した実験・解析により、放射光X線共鳴磁気散乱の効果と非共鳴X線の弾性磁気散乱の効果が、同時に観測された。これにより、ポンプ・プローブを利用した磁性電子雲のピンポイント観測への道が開けつつある。
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今後の研究の推進方策 |
電子を内殻から調べたい電子軌道へと跳ね飛ばすポンプ役を共鳴磁気散乱に担わせ、X線弾性散乱(トムソン散乱)をプローブとして、跳ね飛ばされた電子が係る磁性電子雲をピンポイントで観測することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の実験・解析には、放射光実験施設に設置した既存の移相子ゴニオメータや4軸型X線回折装置を利用することで当初予想より節約することができた。また、研究結果がまとまったのが年度末であり、主要な学会発表等を平成28年度に予定している。その上で、次年度の実験には新規開発の要素が多く、研究全体の実現度を考えると次年度へ使用額をシフトした方が良いと判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
エネルギー分解能に問題がないことはわかったが、速い反応を追うことになるため、弱い散乱強度を測定する点で工夫する必要があり、精密測定を見越したX線計測システムの開発に尽力する。
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