研究課題/領域番号 |
15K13350
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 静雄 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20135536)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化物半導体 / 伝導性制御 / 酸化還元反応 / 酸化ガリウム / 酸化スズ |
研究実績の概要 |
単結晶酸化物半導体の伝導性制御の新しい方法として、酸化物の生成反応と同時に還元反応を誘起する仕組みを導入することを試みる。ミストCVD法での成長において原料に還元剤を加え、酸素の強い酸化力により形成される欠陥を還元反応で制御しつつアクセプタドーピングを行い、p型伝導の実現を目指す。平成27年度の研究では、SnO2とIn2O3をとりあげ、ミストCVD法の原料溶液にアンモニアやグルコース等の還元剤を溶解させて同時に供給し、アクセプタの形成への寄与を明らかにすることを目標とした。得られた成果の概要は以下のとおりである。 (i) SnO2におけるアクセプタの形成のため、還元剤の効果によって酸素不足のSnOx (x<2)を得ることを目指した。XPS測定よりSn(2+)の存在を確認し、ゼーベック効果によりp型伝導が観測された。しかし表面層が酸化されSn(4+)が主となるためこの影響を除くことが課題とされた。 (ii) ZnあるいはMgをドーピングするため、アセチルアセトナト塩を原料とし、原料溶液中にアンモニアあるいはグルコースを混合させて成膜反応に還元性を付与する技術を整備した。 (iii) 上記技術を用いてIn2O3膜中にMgドープを行い、アクセプタが形成されることを確認した。ただしまだドナを補償するレベルであるため、母体結晶のドナの低減が課題とされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究において、アンモニアやグルコース等の還元剤の効果によって、アクセプタ形成に寄与することを確認できたことが大きな成果であったと考えている。他方、表面層の影響や抵抗が極めて高いために、ホール測定によって膜の評価を行うことが予想以上に困難であるという問題が明らかになってきた。これが予定よりも達成度の低い点であると言える。しかし、電極の新しい形成法やホール測定試料の形状の改良など、その解決に向けた見通しを得ており、今後につながる解決策を見出している。平成27年度の研究では、まずアクセプタの形成を確認することを目指し、その後p型伝導を実現するという研究方針で臨むことで、所期の目標完遂は可能であると考えている。以上の研究経過から、達成度を上記のとおり自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、アクセプタの形成を確認することを第一に行う。本研究の大きな目標としてGa2O3とZnOのp型化を挙げているが、平成27年度の研究を踏まえ、今後の研究の進め方としては、いきなりこのような材料を対象とするよりも、まずIn2O3を対象にアクセプタの形成を確認するという方法が効果的であると考えられる。これは、In2O3において補償中心という形でアクセプタの形成を確認することが容易であったためである。ここで還元剤の種類、添加量等の基本的な条件を明らかにし、これをもとにしてGa2O3とZnOへのドーピングを試みてゆくことが望ましいと考えられる。具体的な例を以下に示す。 (i) SnO2のp型化については、問題となっている表面酸化層の影響を除いてp型化を達成する。これは過剰な酸素欠陥の生成によるものと考えられるため、還元性の雰囲気を弱めるとともにSnを置換するドーピングを行うとともに、成長直後に表面パッシベーション膜を設ける、などの方法で対応することを考えている。 (ii) In2O3へのMgドーピングにおいて、アクセプタの発生を定量的に議論できることがわかったため、これを進めてゆく。また本研究で得られたセレンディピティとして、MgドーピングによってIn2O3のMOSFET特性が著しく改善されることがわかり、電界効果移動度も67 cm2/Vsと比較的大きかったため、ワイドギャップを活かした応用展開も可能になると考えられる。 (iii) 本研究の最終目標であるGa2O3とZnOのp型化については、試料が高抵抗の領域でのホール測定が必要となり、実証が困難なことが予想される。そのため、C-V特性を用いた評価等を阿多らに取り入れて検討を行えるようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ワイドギャップ半導体を対象とするため、ドーピングされた材料の状態を知るためにカソードルミセセンス測定が不可欠であることがわかり、電子銃制御電源を購入した。ただ深紫外の発光を観測するためには測定系の設計に問題があったことが分かり、その改良に取り掛かったが、納入可能時期が次年度となった。そのため、必要な試料作製のための消耗品費等として次年度使用額が生じた。もちろんこれは研究計画からの遅れではなく、研究遂行のためにはカソードルミネセンス測定が望ましいという新たな着想をもとにするもので、これによって研究計画以上の効果が期待されると考えたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の早いうちにカソードルミネセンス装置を改良し、予定していた試料作製を加速させて、当初の計画を上回る成果を得ることを計画している。
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