イオン液体が薄膜表面に誘起する強烈な電場により実現する電気化学反応と静電的キャリアドーピングを組み合わせることにより、近年トンネル分光や光電子分光法で報告されているセレン化鉄の高温超伝導転移温度の起源を解明することを目的として研究を行なった。
初年度は高品質のセレン化鉄薄膜の成長と、セレン化鉄薄膜をチャネルとした電気二重層トランジスタの作製とその電気特性評価に取り組んだ。薄膜成長パルスレーザー堆積法により、成長条件を最適化することで酸化物基板上に平坦な単結晶薄膜を作製することが出来た。得られた高品質薄膜をホールバー形状に加工し、DEME-TFSTをイオン液体として搭載した電気二重層トランジスタを作製した。ゲート電圧と試料温度を精密に制御することで、イオン液体とセレン化鉄薄膜表面の電気化学反応を誘起することに成功し、厚膜の状態から単層まで系統的に膜厚を減少させて電気伝導測定をすることができた。その結果、ある臨界膜厚以下において40Kの高温超伝導が発現することが明らかになった。
最終年度は前年度確立した電気二重層トランジスタにおけるエッチング技術を用いて、極薄膜高温超伝導における酸化物基板の効果を調べた。各種酸化物基板上にセレン化鉄薄膜を成長し、電気伝導測定の膜厚依存性及びゲート電圧依存性を系統的に調べた。SrTiO3及びKTaO3基板上の極薄膜状態では、ゲート電圧を除去しても高温超伝導状態が保持され、これまで真空一貫の分光測定と同様の振る舞いが見られた。一方、MgO基板上の極薄膜状態では、ゲート電圧印加時のみ高温超伝導状態が実現し、ゲート電圧の除去により絶縁体化した。以上の結果により、セレン化鉄の極薄膜状態における40K級の高温超伝導の起源が基板からの電子移動による薄膜への電荷蓄積にあるということを明らかにした。
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