研究課題/領域番号 |
15K13356
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐々木 正洋 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80282333)
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研究分担者 |
山田 洋一 筑波大学, 数理物質系, 講師 (20435598)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電界電子放出 / グラフェン / 電子放出分布 / エネルギー分布 |
研究実績の概要 |
炭化したシャープペンシル芯からの優れた電子放出の起源を明らかにすることを目的とする。そのために、本研究では、FIM/FEMを用いることで電子源先端の原子スケールでの幾何的構造と局所的な電子放出分布の関係を明らかにするとともに、各電子放出サイトでの放出電子のエネルギー分布の測定を行う。 本研究において放出電子のエネルギー分析から機構解明において重要な手がかりが得られることが期待されるが、平成27年度は、そのための実験装置の構築を行った。既存の半球面静電型電子分光器に電界放出源を取りつけ、電界放出電子のエネルギー分布を計測することが可能になった。ここで、プローブホール付スクリーンの取りつけには至らずエミッションサイトを選択しての計測は実現できなかったものの、シャープペンシル芯からの電界放出電子のエネルギースペクトルには、金属からの電界放出には見られない特異な構造があることが明らかになった。エミッションサイト毎のスペクトル計測からその構造各成分の起源が明らかになることが期待される。 現状のシャープペンシル芯では、先鋭化が不十分であるため、FIM/FEM計測における拡大率が十分ではなく、更なる先鋭化が求められていた。電解研磨における条件を変えて試みたが、十分な先鋭化実現には至らなかった。ただし、その中で、見た目の先端曲率半径と電子放出特性には相関がなく、電子放出には、局所的な電界強度ではなく先端の電子状態が重要であることが改めて確認された。 炭素系材料においては、電子状態と電子放出特性の関係は未だ明らかになっていない。この問題を解決するため、良く規定された炭素系材料からの電子放出の詳細な計測が有効である。そこで、表面に吸着したC60分子からのFEMを計測したところ、超原子分子軌道を投影したと思われるパターンが観測された。電子放出の起源に係わる。さらに検討を進める必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においてキーとなる実験装置である、電子放出サイトを選択してのエネルギー分析を実現する装置は、予定から少し遅れたが、間もなく完成できる見込である。一方、先鋭化の方法の確立にはもう少し検討を進める必要がある。これまでの研究の蓄積により、FEM像と電子放出特性との関係は徐々に明らかになりつつある。方法が十分に確立していないため、研究の効率は十分でないかもしれないが、多様な状態を形成することが可能であるため、所期の目的は十分に達成できると期待される。 一方、昨年度の計測により、C60分子のFEM像において、C60分子の超原子分子軌道を投影したパターンが再現性よく計測された。このことは、炭素系材料からの電子放出の物理を明らかにする上で極めて重要な情報である。この実験結果を元に、電子放出の機構に関する考察を深めることが可能であり、シャープペンシル芯からの電子放出を理解するための大きな手がかりになることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の予備的計測から、シャープペンシル芯から電界放出された電子のエネルギースペクトルは、金属電子源では現れない複雑な構造を有することが明らかになった。今年度は、プローブホール付スクリーンを取りつけて、特定の放出サイトに限定したエネルギースペクトルの取得が可能になる。この装置を用い、系統的な計測を行う事により、スペクトルにおける複雑な構造の起源が明らかになると期待される。 一方、C60分子のFEM/FIM計測から電子放出の物理の根幹に係わる新たな情報が得られている。他の分子において、分子の配向を制御した上で、FEM/FIM計測を行う事で、ここ得られた現象の一般性を明らかにすることを目指す予定である。 これらの結果を組み合わせることで、炭化したシャープペンシル芯からの優れた電子放出の起源が明らかになることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
プローブホール付スクリーンを半球型分光装置に設置するための業者の選定が遅れたため、発注に至らなかった。また、関連部品も決定していないため、発注に至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
4月初旬に発注を行ったため、予定通りの研究を行うことができる。
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