炭化したシャープペンシル芯からの優れた電子放出特性の起源を明らかにすることを目的とする。そのために、本研究ではFIM/FEMを用いて電子放出点を特定すると共に、個々の放出電子のエネルギースペクトルを計測する事によりその機構解明を目指した。 平成27年度は、FIM/FEM計測で多様な電子放出点が存在することが明らかになったため、特定の電子放出点からの電子のエネルギースペクトルを計測するため、電気化学エッチング等により先端の先鋭化を試みたが、先鋭化と構造安定性が両立せず、当初の目的を達成することが困難であることが明らかになった。 そこで、平成28年度は、方針を変更して、良く規定された炭素系材料からの電子放出の精密な計測を実施し、まずは、炭素系材料からの電子放出の特徴を捉えることにした。ナノグレインで構成されることが明らかになっているアモルファス炭素膜では、ある膜厚以上において、再現性よく、実効的仕事関数が小さい電子放出特性が現れることが明らかになった。また、エミッタ先端に形成した多層C60分子層からの電子放出では、超原子軌道に相当するFEMパターンが観測されるとともに、実効的仕事関数が小さい電子放出特性が観測された。これは、特定の準位から共鳴的に電子が放出されることを示すものであり、単純化したモデルによる数値シミュレーションでもこれを示唆する結果が得られた。エネルギー分析の結果もこれを示唆した。これまで、あまり注目されてこなかったが、炭素系材料の特異な電子放出の起源として、共鳴トンネル現象が関わることが明らかになった。また、FEMで生じる多様なパターンの起源が明らかになっていなかったが、本研究の観測結果を元に考察を進めると、FEMでは、電子放出される準位の軌道がスクリーン上に投影されるとすることで矛盾なく現象を説明できそうである。 今後は、理論的、実験的検証を行ってゆく。
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