研究課題/領域番号 |
15K13357
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山田 豊和 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 准教授 (10383548)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 |
研究実績の概要 |
「電界」による磁気異方性制御が実現すれば、電力消費フリーな次世代エコ磁気情報デバイス産業が創出され、人類の情報へのニーズと電力消耗という、相反する課題を解決できる。本研究「STMによるMgO基板上の単一Fe原子の巨大磁気異方性の原理解明」は、電界制御磁気素子として実用化に最も近いFe/MgO界面に焦点を当てる。電界印可のために数原子層までFeを薄くした結果、原子レベルでのFe/MgO界面の不完全性がデバイス全体の特性を左右しかねない事態となり、Fe/MgO界面での磁気異方性の電界依存性の起源が揺らいでいる。我々は、走査トンネル顕微鏡(STM)技術を駆使して、原子レベルで平坦なbcc-MgO(001)超薄膜の上の単一Fe原子の巨大磁気異方性の発現の原理解明を行い、次世代電界制御型・磁気素子開発実現を目指す。このために以下の3つのテーマを行う。 (1)「Fe/MgO界面で発現する巨大磁気異方性の起源」の解明。これを行うため、単一Fe原子をMgO基板上に吸着させ、STMマニピュレーションを用いてFe原子をMgO上に任意の位置に移動させ、異なる吸着サイト位置での電子状態ピークの変化を見る。(2)「磁気異方性の電界による制御」を行う。鉄原子1個または実用的な1-3原子層の鉄膜の結晶構造に対して電界を印加する。結晶構造はbccが基本であるがfccとなる可能性はないか。結晶構造の変化が磁気異方性の変化を誘発していないか確認する。(3)「酸素原子のFeへの移動プロセスの解明」を目指す。MgO膜にFeを吸着させた際に、MgOの酸素原子がFeと結合して新たなFeOを形成しないか確認する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度までに、原子レベルで平坦で欠陥の極めて少ないMgO/Fe(001)界面の作製に成功した。通常SiやMgO基板を使用するとFe/MgO膜には1-2nm毎に原子欠陥、10-20nm毎に粒界が生じる。つまり極めて欠陥の大きい界面であり、Fe/MgO系の磁気抵抗比の頭打ちの原因となり、また電界を印加した際、電界依存性が欠陥によるものなのかFe/MgO膜そのものに由来するのか明確でない。そこで、我々は高純度のFe(001)ウィスカ単結晶(化学気相成長させた)を基板として使用した。Fe(001)基板自体は非常に活性であるため、直接MgO膜を形成すると界面が乱れる。そこでFe活性を抑えるため、あえてFe(001)表面を酸素でプレコートしFe(001)-p(1x1)O膜を得た。最終的に基板温度300K以下、アニール温度850Kで、原子レベルで平坦なFe(001)-p(1x1)Oテラス(表面上80-90%)と、Fe-O島(表面上10-20%)が生じることが分かった。この表面に1原子層Mg層を付けた。Mg膜上の分光測定からMgは金属特性を示し、MgOが形成しない事を確認した。その後、Mg単原子膜を酸化し追加アニール850Kで、原子レベルで平坦な単原子MgO膜ができた(ギャップ幅約7-8eV)。この表面は非常に安定で、超高真空中で約2ヶ月たっても形状および電気特性は変わらなかった。この表面にFe単原子膜を吸着した。層成長することを確認した。Fe原子層でd状態ピークを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
デバイス機能化において重要な鍵となるのが原子欠陥の制御である。1個の原子欠陥(ステップ、キンク、合金、不純物原子等)が膜の磁気特性に及ぼす影響を明確化するには、まず、原子レベルで欠陥の少ないMgO基板をつくる必要がある。2015年度までにFe(001)-p(1x1)O基板を使うことで作成に成功した。当初、1個のFe原子を吸着させることを考えていた。しかし、実用デバイスでは、1原子ではキュリー温度が低く、また熱拡散する。そのため1原子で得られた結果が重要な意味をもつかは疑問視される。そこで、室温でも機能し、実用Fe/MgO系デバイスで使用されている3-5原子層厚さのFe膜を研究する。MgO上のFe膜はbcc(001)と考えられているが、実際には、局所的な欠陥等による「歪み」で原子間距離が変化する。さらに、STM探針より鉄膜へ電界を印可すると、Fe2原子層厚さまでは電界が侵入する。電界侵入で、負電界印可ではFe原子層間距離は広がり、正電界印可では原子層間距離は縮む。つまり電界印可時に、安定なbcc構造ではない。もしFe超薄膜にbcc(001)以外の安定相があったり、欠陥によって新たな相にピンされるのであれば、電界により相転移が生じる。STMを用いて、このMgO上のFe膜の原子構造を確認し、電界印可による結晶・電子磁気構造がどのような影響をうけるか、STM形状像とSTM分光測定から明らかにする。
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