Si(111)√3x√3-B基板上にBi原子を室温蒸着した場合、少なくとも20原子層高さまでの範囲ではBi(110)島が安定に形成され、Bi(111)島は現われないことを確認した。またBi(110)島はウエッティング層の上に核形成される、ストランスキー・クラスタノフ型と呼ばれる成長形式に従って成長すること、この時のウエッティング層の厚さは1原子層厚さであることを、蒸着したBi原子量と形成される島の体積を詳細に調べることにより明らかにした。ウエッティング層はBi(110)島間では特に周期的な原子構造は示していないが、その上に形成されたBi(110)島はSi(111)√3x√3-B基板と格子整合した方向のみに向かって成長していることから、Bi(110)島直下ではウエッティング層は周期的な結晶構造を取ることが明らかになった。 またウエッティング層上に形成されるBi(110)島の高さ分布を走査トンネル顕微鏡を用いて定料的に評価した結果、島は偶数層、奇数層のいずれの高さも取りえること、ただし偶数層高さのBi(110)島は、奇数層高さのBi(110)島より面積比にして約3倍程度常に多いことが明らかになった。さらに偶数層高さの島の上に形成された奇数層高さテラスの格子像の観測から、これまで偶数・奇数両方の高さを取る場合に考えられていたようなバルク的なA7結晶構造をBi(110)島が常に取っているのではないことが実験的に明らかになった。偶数層島の優位性は、むしろBi(110)島はバルクと異なった黒燐構造(A17構造)を少なくとも偶数層高さでは取る事を強く示唆するものである。またウエッティング層はこうしたBi(110)島の構造とは独立したものであることが明らかになった。さらに、Bi(110)島の高さに応じた表面の電子状態密度の走査トンネル分光測定の結果は、これらと矛盾しないことが確認された。
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