研究課題/領域番号 |
15K13363
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中嶋 隆 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (50281639)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子 / 薄膜 / 構造変化 / 薄膜温度 |
研究実績の概要 |
今年度は色素ドープポリエチレン薄膜を蒸発成膜によって作成し、薄膜の構造変化および温度を光学的に検出することを目指した。波長1064nmのNd:YAGレーザーパルス(ポンプパルス)を照射した時に、ポリエチレン薄膜が損傷を受けることなく融点以上の温度にまで加熱されるよう、ドープする色素濃度とポンプパルスフルエンス、および薄膜の厚さを調整した。ポリエチレン薄膜が融点以上にまで加熱されているかどうかを確認するには、構造に敏感なポリエチレンの振動モードと共鳴な中赤外プローブパルスの透過率変化を検出することとした。 予想通り、ポンプパルスフルエンスを増加させていくと、中赤外プローブパルスの透過率が増大していったが、フルエンスを59mJ/cm2以上にしても透過率の増大は見られなかった。これはすなわち、59mJ/cm2のフルエンスで既に薄膜が完全溶融したことを示唆している。 こうして、薄膜が完全溶融するフルエンスを確認した後、今度は、自然冷却による薄膜の再結晶過程を調べるため、ポンプパルスとプローブパルスの遅延時間を変えながら(0-10ms)プローブパルスの透過率計測を行った。遅延時間を長くすると、予想通り透過率が減少し、2msほどの遅延時間で透過率は元の値にまで戻った。これはつまり、加熱溶融→再結晶化のプロセスを経た後も、薄膜の結晶度はほぼ元通りとなることを意味している。 次に、共鳴中赤外パルスの薄膜透過率から薄膜温度を評価できないかと考えた。もし、加熱溶融→再結晶化によって薄膜の結晶度がレーザー照射前に状態から変わるのなら、薄膜温度の評価は容易ではないが、今の場合、再結晶後の結晶度がレーザー照射前と変わらないことが確認できたので、共鳴中赤外パルスの透過率から薄膜温度を逆に評価することができた。こうして、世界で初めて薄膜の瞬時温度変化を実験的に評価することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリエチレンの構造に敏感な振動モードと共鳴な中赤外パルスの薄膜透過度の時間変化測定から、薄膜温度の瞬時変化を世界で初めて評価することができた。この成果は、薄膜の結晶度を制御しようという次のステップにつながる。
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今後の研究の推進方策 |
レーザーによって瞬時に約150℃にまで加熱され、完全に溶融した膜厚2.5μm程度のポリエチレン薄膜が、その後自然冷却によって常温に戻るまでの時間は約2msであることがわかったので、今後は、レーザー加熱後、この2ms以内に静電場を印加し、自然冷却によって再結晶する前に結晶性を高めることを試みる。その際、印加する電圧の大きさや方向により、結晶度や結晶方向がどのように変化するかを系統的に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
薄膜試料作製と薄膜温度計測法の開発が予想以上に順調に進み、試薬等の経費が少なくて済んだから。
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次年度使用額の使用計画 |
結晶構造を制御するための消耗品や電源などの購入に使用する。また、実験を遂行する外国人研究員の招へい旅費に用いる。
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