研究課題/領域番号 |
15K13368
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
内田 紀行 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 主任研究員 (60400636)
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研究分担者 |
多田 哲也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 部門付 (40188248)
宮崎 吉宣 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 産総研特別研究員 (30610844)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 原子層シリサイド半導体 |
研究実績の概要 |
本研究では、Si表面上にヘテロエピタキシャル形成した遷移金属内包Siクラスター(M@Sin)を単位構造とする数原子層の新規シリサイド半導体の有する高密度ドナー準位(~1021 cm-3)の起源を明らかにし、既存のSi材料科学では到達できない、「数原子層の空間に1021cm-3を超えるキャリアを発生する」ことで、極限のドーピング技術を追及する。そのうえで、(1)フェルミレベルコントロール可能な原子層シリサイドとSiとの界面準位を持たない接合形成、(2)電界や電荷注入による原子層シリサイドのバンドギャップ制御を実証する。本年度は、M@Sin層の欠陥密度を低減し膜質を向上する目的で、これまでレーザーアブレーション法からCVD法への移行を行った。WF6、SiH4ガスを原料に、石英基板上にW@Sin膜(n=8-12)を成膜することに成功した。W@Sin膜はアモルファスSiネットワークを持つが、CVDで作製した膜は、レーザーアブレーション膜に比べるとアモルファスネットワークが熱的に安定であることが判明した。第一原理計算による解析から、W@Sin膜の熱的な安定性は、欠陥の一つであるW-Si-W結合の密度に影響を受ける。これは、CVD膜において、W-Si-W結合の形成が抑制されたものと考える。一般的なアモスファスSiは石英基板上で、600℃の熱処理で多結晶化するものの、W@Sin膜のアモルファスネットワークは800℃の熱処理でも結晶化しなかった。局所的にW@Sin構造を作ることで、アモルファスSiネットワークがより熱的に安定化することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画遂行上の必要不可欠なM@Sin層の膜質の向上が、M-Si-M結合の形成密度の低減にあることを見出し、それを克服するためのCVD法を確立した。CVD膜を用いたSi基板上でのヘテロエピタキシャル成長は、Si基板表面の清浄化がカギとなることが判明し、装置改造にも着手した。研究期間内に予定しているM@Sin層を用いたSiナノエレクトロニクスの革新的な要素技術の実証を行う準備が整ったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
欠陥密度の少ないCVD膜を用いて、W@Sin層をSi表面上に形成する。その上で、M@Sin層の2次元的なキャリア輸送特性や、M@Sin/Si接合特性を評価する。2次元キャリア計測では、1021-1022cm-3レベルの高密度キャリアドーピングの実証を、接合特性評価では、上述した逆バイアス印加でのバンドギャップ変調効果を狙う。また、M@Sin層に堆積した絶縁体層を介してゲート電極を形成し、M@Sin層の電界効果測定を行うことで、狭ギャップ化によるキャリア伝導度の上昇や、ドナー・アクセプター準位の浅エネルギー化による高密度キャリア誘起について調べる。また、電界印加時のM@Sin層の反射スペクトルのその場観察や、M@Sin層の電界効果を解析することで、直接的に外部電界印加によるバンドギャップ変調を観察する。第一原理計算では、絶縁体膜や金属電極との接合を考慮した構造を用い、電界を印加や電荷を注入した場合の構造や電子状態の変化について調べ、バンドギャップの変調効果など新規物性の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行に使用しているラマン散乱装置のカメラ表示が故障し、予定になかった修理を行ったため、予算が不足し外注分析(高分解能電子顕微鏡観察)ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度予算と合わせて、予定していた外注分析に使用予定。
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