本研究は、光通信における新たな多重化手法として注目されているモード多重化または空間多重化に関するものであり、OAM(Orbital Angular Momentum、軌道角運動量)と呼ばれる性質を持つ光ビームを入出力することのできる光集積回路を創生することを目的としている。具体的には石英ガラスなどの低屈折率基板上に形成された、窒化シリコン(SiN)などのコア高屈折率膜に、周方向に周期構造の付いたディスク光共振器を形成する。この光共振器注の光閉じ込めと、鉛直方向への回折機構によって特定のOAMを持つ共振モードを発現させ、そのパワーの一部を鉛直方向に回折光として取り出す(または鉛直方向から到来するOAMビームで共振モードを励振し、光集積回路内に導波光として取り出す)ことを狙って開始された。H28年度は主に2つの事項を実施した。 (1)デバイスの評価実験の継続。H27年度に現有の電子ビーム露光装置、及びナノテクノロジープラットフォームの実施機関である産業技術総合研究所の微細加工サービスを利用して試作した光導波路デバイスの観察及び評価実験の続きを行った。 (2)周期構造付き光共振器の共振物理現象の解明と、高効率電磁界シミュレーションのハードウェアアクセラレーションの研究。電磁界解析の基本アルゴリズムは既に検討済みであったが、近年の計算機ハードウェアの急速な進展を存分に利用して解析の効率を極限まで高めるために、学内の別研究チームとの共同研究を新たに開始した。具体的にはそれまで汎用グラフィック・アクセラレータ(GPGPU)上に有限差分時間領域法(FDTD法)のプログラムを実装することで電磁界の空間方向に多並列計算を行っていたものを、新たにFPGA上に実装を試みることで時間軸方向の計算並列化も実現した。これにより少ない計算機資源でより大規模な解析空間を取り扱うことへの見通しが立った。
|