研究課題/領域番号 |
15K13373
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
尾松 孝茂 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (30241938)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光渦 / カイラリティー / ナノフォトニクス |
研究実績の概要 |
螺旋波面に由来する角運動量(軌道角運動量)とカイラリティーを持つ光(光渦)が物質と相互作用すると、軌道角運動量が物質に転写されて螺旋構造体(カイラル構造体)ができる。光渦が創るこのカイラル構造体は、その先端近傍の対称性の破れによって軌道角運動量を持つ極微(ナノメートルサイズ)な近接場光(「ナノ光渦」)を発生する。 本研究の目的は、光渦が創る多彩なカイラル構造体によって「ナノ光渦」を操り、分子やその集合体(分子系)の位置・配向・公転運動・電子遷移を階層的に制御してナノスケールの新奇カイラル構造体(カイラル・ナノ構造体)を創成することである。本研究によって「光の軌道角運動量で分子系を制御しカイラル・ナノ構造体を創る」光科学(カイラル・フォトニクス)が開拓できる。 平成27年度は光渦が創る光輻射力を電磁気学的にモデル化し、所望のカイラル構造をデザインするための理論を構築した。カイラルな構造ができるためには物質に大きな吸収があること、光波の軌道角運動量とスピン角運動量の正の結合があること、が必要であると分かった。そこで全角運動量が同じだが軌道角運動量とスピン角運動量の異なる光波を用いてアゾポリマー薄膜にカイラルな表面レリーフを形成し、構築した理論の妥当性を検証した。さらに、カイラル構造体の近傍にできる近接場光を解析評価するためFDTD数値解析によりカイラル構造近傍における近接場光の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は光渦が創る光輻射力に関する理論を電磁気学的に構築した。その結果、カイラルな構造ができるためには物質に大きな吸収があること、光波の軌道角運動量とスピン角運動量の正の結合があること、が必要であると分かった。さらに全角運動量が同じだが軌道角運動量とスピン角運動量の異なる光波を用いてアゾポリマー薄膜にカイラルな表面レリーフを形成し、構築した理論の妥当性を検証した。この理論を用いると任意のカイラルな構造体をデザインできる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
アゾポリマー1分子のトランスーシス光異性化を起源とする表面レリーフ形成は近接場光でも起こることが近年分かってきた(Appl. Phys. Lett., 91, 091911 (2007))。これらの実験事実をもとに、カイラル構造体にアゾポリマー薄膜を近接して、「ナノ光渦」の波面情報を表面レリーフとして記録する。「ナノ光渦」が創る表面レリーフのカイラリティーとその形状から「ナノ光渦」の光電場を可視化する。 カイラルπ共役高分子やネマティック液晶など有機エレクトロニクスに使用されているカイラル高分子のカイラリティー制御の可能性を探る。具体的には、カイラル構造体を高分子溶液や液晶中に配置し、「ナノ光渦」を発生させる。カイラリティーの配向度は円偏光二色性から評価する。 また、生物は分子モーターと呼ばれる酵素の力学的回転運動を介してATPをADPへと分解し、生命活動のためのエネルギーを生成している。そこで、「ナノ光渦」による分子モーターの回転運動制御の可能性について理論的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
所望の「ナノ光渦」をデザインするための理論計算と「ナノ光渦」が創る近接場光の数値解析を優先したため、実験に要する消耗品費の使用が当初より少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
理論計算がひと段落したため、今年度は実験を優先するため、当初予定していた予算を消化する。特に、「ナノ光渦」が創る近接場光を可視化するためのアゾポリマーやガラス機材、さらに、原子間力顕微鏡の消耗品などで使用する予定である。
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