螺旋波面に由来する角運動量(軌道角運動量)とカイラリティーを持つ光(光渦)が物質と相互作用すると、軌道角運動量が物質に転写されて螺旋構造体(カイラル構造体)ができる。光渦が創るこのカイラル構造体は、その先端近傍の対称性の破れによって軌道角運動量を持つ極微(ナノメートルサイズ)な近接場光(「ナノ光渦」)を発生する。本研究の目的は、光渦が創る多彩なカイラル構造体によって「ナノ光渦」を操り、分子やその集合体(分子系)の位置・配向・公転運動・電子遷移を階層的に制御してナノスケールの新奇カイラル構造体(カイラル・ナノ構造体)を創成することである。 本年度は、カイラル構造体の近傍に発生する「ナノ光渦」の存在を電磁場解析によって明らかにした。特に、円偏光が誘導する光のスピンー軌道相互作用の結果、「ナノ光渦」のトポロジカルチャージは2となることを解明した。さらに、カイラル構造体にオーバーコートしたアゾポリマー薄膜のカイラルな質量移動から「ナノ光渦」を実験的に可視化した。これらの研究成果は、「光の軌道角運動量で分子系を制御しカイラル・ナノ構造体を創る」という当初の目標を達成する研究成果である。 また、円偏光をアゾポリマー薄膜に照射すると、円偏光の持つスピン角運動量が軌道角運動量に変化し、アゾポリマー薄膜の公転運動を促すという新奇物理現象も発見した。その結果、円偏光を照射するだけで、キラルな表面レリーフが形成できることを明らかにした。
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