平成27年度には、新手法による高強度中赤外光パルス発生を実証し、中心波長8マイクロメートルにおいてエネルギー5マイクロジュール、パルス幅70 fs、キャリアエンベロープ位相安定なパルスを得た。この中赤外パルスを集光することにより、最大56 MV/cmの高強度光電場の発生と、可視域極短パルスによる電場波形の電気光学サンプリングを実現した。平成28年度には、高強度光電場で駆動される固体系における新現象の探索を行い、いくつかの興味深い現象を観測した。 (1)GaSe結晶における高次高調波発生と偏光解析:GaSe結晶に高強度中赤外光を集光することによって、バンドギャップを越える12次までの高次高調波発生を観測した。光電場強度・結晶の方向を替えながら、高調波の偏光解析を行った結果、入射光の偏光と平行な成分では60度周期の変調が、直交した成分では30度周期の変調が観測された。奇数次高調波の結晶角度依存性は古典的な非線形光学では説明できず、高強度光電場で駆動された極端な非線形光学応答が発現していると結論された。半導体ブロッホ方程式に基づく多バンドシミュレーションとの比較を行い、実験結果と定性的な一致を見た。また、直交偏光成分の角度依存性がバンド内でのキャリア運動による偏光回転によって説明できることを示した。 (2)高強度光電場下でのサブサイクル分光:最大30 MV/cmの光電場をGaSeに印可し、6.5フェムト秒の極短プローブパルスで透過率の変調を測定した。電場強度が10 MV/cm以下ではフランツ・ケルディッシュ効果による変調が見られた。電場強度が10 MV/cmを越えた領域では光電場に追随した極性的な変調を観測した。 これら二つの結果は、中赤外光による限界光駆動系の高調波の偏光特性および吸収端付近での超高速光学応答をはじめて明らかにしたものである。
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