研究課題/領域番号 |
15K13377
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 一隆 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (20302979)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子コヒーレンス / コヒーレントフォノン / 電子フォノン結合系 / フェムト秒光パルス |
研究実績の概要 |
量子状態の持つコヒーレンスを活用することが、次世代量子デバイス開発には必要不可欠である。本研究では、アト秒の時間精度で相対位相制御した光パルス列を用いて時間差をつけて固体内部に生成する量子状態間の干渉を過渡反射率計測により調べることで、量子コヒーレンスを計測する新しい方法(干渉型過渡反射率計測法)を開発することを目的としている。 平成28年度は、振動を抑制するように改造した冷凍機クライオスタットを導入することで、室温から10 Kまでの試料温度においてポンプ・プローブ型過渡反射光強度測定ができる装置を開発した。これを用いて半導体GaAsのコヒーレントフォノン(LO)とフォノンプラズモン結合振動(LOPC)の振動数と位相緩和時間の温度依存性を測定し、低温になるに従ってLOが高振動数側にシフトし、寿命が延びる結果を得た。またLOとLOPCの比率も温度依存した。相対位相ロックしたパルス対を用いて90 Kの温度(温度安定度1 K以内)でGaAsの干渉型過渡反射率計測法を行い、電子・フォノン結合系での量子コヒーレンスを計測した。LOフォノン強度にのった電子コヒーレンスは50 fs付近で消失したあと復活し、光の干渉が無くなった120 fs程度までGaAsに保持されることを見いだした。 理論研究では、電子2バンドと変位した調和振動子で構成されるモデルを用いて、超短パルス光励起による電子・フォノン結合量子状態の時間発展を計算した。動的ヤーンテラー相互作用を考慮することによって、非対称モードの光学フォノンも取り扱えるようになった。この成果はPhys. Rev. B誌(95 (2017) 104302)に掲載された。このモデルを、パルス対励起によるコヒーレント制御計算に拡張し、実験結果の基本的振る舞いを再現できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、アト秒の時間精度で位相制御した光パルス列を用いて時間差をつけて固体内部に生成する量子状態間の干渉を過渡反射率計測により調べることで、量子コヒーレンスを計測する新しい方法(干渉型過渡反射率計測法)を開発することを目的としている。 本研究の目的に沿って300アト秒の精度で制御したフェムト秒パルス列を発生し、光パルス列の光学干渉と物質中に光励起された量子状態の干渉を同時に計測できる、干渉型過渡反射率計測装置を作成した。この装置により、物質中に励起されたフォノン状態に電子コヒーレンスを焼き付けることで、電子コヒーレンスとフォノンコヒーレンスを同時に計測することが可能になった。冷凍機クライオスタットを低振動型に改良することで、10 Kまでの低温で過渡反射率計測ができるようになった。半導体GaAs単結晶を試料として、干渉型過渡反射率計測法を用いた計測を試料温度室温と90 Kで行い、室温に比べて90 Kで電子コヒーレンスとフォノンコヒーレンスが長く保たれることを実測した。とくに90Kでは、LOフォノン強度にのった電子コヒーレンスは50 fs付近で消失したあと復活し、光の干渉が無くなった120 fs程度まで固体中に保持されるという、当初予期していなかった新しい現象を発見した。理論研究では、電子2バンドと変位した調和振動子で構成されるモデルを用いて、超短パルス光励起による電子・フォノン結合量子状態の時間発展を計算した。この成果はPhys. Rev. B誌に2報(95, 10430 (2017) と92, 144304 (2015))掲載された。このモデルを、パルス対励起によるコヒーレント制御計算に拡張し、実験結果の基本的振る舞いを再現できるようになった。 このような成果達成状況から区分(1)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していた干渉型過渡反射率計測法の開発を達成し、GaAsを用いた量子コヒーレンスの温度効果の測定を行うことができた。この研究の中で、当初予期していなかった、LOフォノンに焼き付けられた電子コヒーレンスの消失と復活現象のような新規な現象を見いだした。当初計画を効率的・効果的に進めた結果、直接経費を節約できたこともあり、1年間の研究期間を延長し、さらに研究を発展させることにした。 具体的には、100 K-10 Kの温度範囲においてGaAs単結晶の干渉型過渡反射率計測を行い量子コヒーレンスを行う。この際に、励起光波長を780nm-840nmの範囲内で変化させることで、温度依存するバンドギャップと量子コヒーレンスの振舞いの詳細を調べる。さらに、n型、p型、ノンドープのGaAsを試料として用いることで、LOPCモードにおける量子コヒーレンスの振舞いの違いについて調べる。理論研究では、これまでの電子2バンドと変位した調和振動子で構成されるモデルを用いて、ダブルパルス列による電子フォノン結合系の量子状態の時間発展のパルス幅、励起エネルギー、パルス位相依存性を調べる。さらに、計測過程に関する量子モデルの構築を行う。 また、これまでに得られた研究成果をまとめて国内外の学会で発表するとともに学術誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた「量子コヒーレンスの温度効果の測定」を達成するとともに、当初計画を効率的・効果的に進めた結果、直接経費を節約できた。研究を進める中で、低温でのバンドギャップエネルギー変化に合わせて、励起レーザーエネルギーを制御することで、研究をさらに精緻なものに出来ることが分かった。そこで補助事業期間延長申請をし、平成29年度も研究を続けることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度には、励起エネルギー依存性に関する追加研究を行うと伴に、研究成果の学会発表および論文投稿を行う。
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